第70章 遠い道のり
「さぁ始まりました、第何回目かは分かりませんがバス移動の度に繰り広げられる「深晴の隣の席争・奪・戦」!実況はわたくし、上鳴電気が勤めさせていただきます」
「解説の切島鋭児郎です、よろしくお願いします」
林間合宿までの移動バス。
ヒーロー科1-Aの生徒たちの大半が未だバスに乗り込んでいない中、先頭を切ってバスに乗り込んだのは、切島と上鳴だ。
最前列に座っていた二人は振り返って背もたれを解説席と見立て、後ろに座る緑谷とその隣の飯田に、頼んでもいないのにこれから始まるであろうガチバトルの様子を実況してくれるつもりらしい。
「さぁ三人のうち初めに入ってくるのは誰なのか?切島さん、どう思います?」
「そうですね、やっぱいつもの傾向でいくと爆豪選手が座った隣の座席を向が協調性を見せることなくスルー、好き勝手に遠くの座席に座った彼女を見て爆豪選手がシャウト、そんなことをしている間にスマートな感じで轟選手が向の隣を持っていく、そんな感じじゃないかと思います」
「まるで何度も見てきたかのようにそんな結末が思い浮かびますね。そこの所はどうなんでしょう、切島さん」
「そこの所ってちょっとどこのことを言ってるのかわかりません」
「んーなるほど」
「何がなるほどなのか謎ですが実際に何度も見てきた光景なんで、この戦いの結果は予想がつきますね」
「けど問題は、「前から詰めて座れ」という圧力を保持している相澤先生ですよね切島さん」
「そうなんですよね、担任の言うことは絶対です」
「先生の言うことを聞かないなんて頭が高いってもんですよね。あぁっとそうこうしているうちに爆豪選手が入場!いつものように前に詰めて座るなんてことはせず少し集団から離れた窓際を確保!!」
「なんて荒々しいプレーだ…担任の言うことなど御構い無しか!?」
「あぁっと!?ここで珍しく轟選手が入場!?新しいパターンだ!」
「爆豪選手の隣に…?座ら、ない!通路を挟んだ同列の座席に陣取りました轟選手、これは完全なる宣戦布告!!」
「熱い…アツすぎるぜこの戦い!!」
「結末やいかに!?」
「切島、上鳴、学校で補習の方が良かったか?」
「「とんでもございません!!!」」
担任に深々と頭を下げた二人を見て、苦笑していた緑谷は、あれ、と違和感を抱いた。
(…切島くんは隣じゃなくていいの?)