第71章 似た者同士
恋愛相談、してみない?
そう問いかけてきた青山に、迷うことなく轟が拒絶の意思を見せた。
しかし彼は「ノンッ☆」と轟の答えを聞くことなく、タタンッと軽快にステップを踏んだ後、座席の間に身体を滑り込ませて、轟の隣へと腰掛けた。
「…相談?別に何もねぇ」
「あるだろ?そう言いつつさっ!」
「ねぇよ」
「点呼とるぞ」
静かに向かうはずだった合宿までの道中。
なぜかグイグイと隣の座席に座ってきた青山に、轟は直球で問いかけた。
「なぁ、どうしてきた」
「なんで?空いてただろ」
「…隣が?」
「そうさ」
と青山はいつもの微笑を崩さず、何を考えているのかわからない表情で轟を見つめた。
彼越しに。
轟の視界に爆豪とイヤホンをシェアする彼女が見えた。
だから、普段接点のない青山がなぜ隣に座ってきたのか、ようやく理解できた。
「……ありがとな」
「ノープロさ☆それで恋バナは?」
「しねぇ」
変わらない微笑を向け続けてくる青山から視線を外し、轟は窓際に肘をついて、瞑目した。
いつかの昼休み。
食事を選びながら、彼女が問いかけてきた。
『友達って選んだことある?』
質問を唐突に投げかけてきた彼女に、轟は。
「そんな場面に出くわしたことねぇ」
『そっか。…友達も選ぶ必要があるとしたらさ、それはあんまりに残酷だよね』
「……。」
悲哀を感じさせる、その彼女の言葉に。
轟はしばし考え、問いかけた。
「…選ぶ場面に出くわしそうなのか」
向は困ったように笑い。
轟から視線を外した。
(…そうか)
好意を押し付けるってことは。
常に、何かを選ぶのが苦手な彼女を急かし続けるようなものだ。
自分の好意が受け入れられないことを理由に、彼女をなじるのは。
自分を選べと、強要することに等しい。
(…そんなこと…)
望んではいない、そう考えようとして。
ふと、青山から轟の目の前へと差し出されたチーズを認識し、我に返った。
「チーズはおやつに含まれないから、もってき放題だよね☆」
「……青山」
おまえ、それどっから出した。
真剣に問いかけてくる轟の隣、真っ直ぐ前を向いてモグモグと口を動かす青山は、答えた。
「ポケット直入れ」