第8章 キミに近づきたい
地響きと、衝撃。
耳をつんざく爆発音に、一瞬だけ瞬きをした。
『…!』
その瞬間、核ロケットを持って追いかけっこを続けていた向達と麗日の間に、旋風が巻き起こった。
何階層かの床を突き抜けて、コンクリートを吹き飛ばしたその衝撃波が飛び去っていく先に、青い空が見えた。
向は顔をあげて、じっと、その風を見送った。
向がよそ見をしている間に、麗日は折れた建物の柱を個性で浮かせてバッドのように軽々とそれを構える。
「深晴ちゃんごめんね、即興必殺!」
彗星ホームラン!と麗日は技に名前をつけて、宙に浮いた瓦礫を敵チーム目がけて撃ち抜いてきた。
「ホームランではなくないかーーーー!!?」
と、つい先ほどの向の語尾を真似して、瓦礫の嵐をその身に受けながら、飯田が芸人ばりのツッコミをする。
その直後、麗日は敵チームの方へ駆け込んできて、「超必」を使って核ロケットを回収しようと飛びかかる。
ーーーツメが甘いなぁ
瓦礫の散弾の中で、じっと麗日を視界の中心に置いたまま微動だにしない向は、そんな言葉を思い浮かべた。
麗日が「超必」と呼ぶ跳躍は、無重力を利用した跳躍の為に、放物線状に跳ぶことしか出来ない。
それを麗日が向の前で何度も何度も繰り返す間、向はじっと、その軌道とタイミングを頭に叩き込んでいた。
放物線状に跳び上がった麗日は頂点にさしかかった時、向の予想通り、自分の両手の指先を合わせて、自らの両手を「塞いで」しまう。
その瞬間。
「解除!」
向は、麗日の目の前に高速移動し、突如として進路を妨害する位置に現れ、その合掌した状態の麗日の両手を掴んだ。
「うえ!?」
「よくやった、向くん!」
麗日を抱きかかえるように確保しようとしたその時。
向は、こちらを見る飯田に向かって、大きな瓦礫の塊が、崩れた建物の天井から落下してくるのを視界に捉えた。
『ーーーー。』
麗日を投げ飛ばす?
「自分自身か、触れたものに限り個性の使用を許可する」。
麗日か、飯田か。
勝利か、敗北か。
いくつもの選択肢が頭に浮かんで、消えた。
そして、向は選んだ。