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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第69章 君を留めた日々




『二人で外食って初めてだね!』
「…そうだな」


彼女を外食に連れて行く、なんてこと。
実は何度も考えて却下した。
理由は単純。
合理性に欠くからだ。


『何食べようか』
「…どこへ行っても一緒だ」
『えぇ?そんなはずはないよ』


(……どんな店に行ったって)


おまえの作る料理が一番美味い。
そう言ってやろうとして、相澤はさすがに言葉を押し留めた。
まるで、彼女を口説いているかのような口ぶりだと思ったからだ。


誰と、どんな店で、何を食べても。
相澤には、彼女と一緒に食べる料理以外に「美味しい」と感じるものは存在しない。
自分が美味しいと思うものを好きな相手にも食べさせてやりたい、なんて意見を聞いたことはあるものの。
向を外食に誘ったことはない。
いつも口にしている彼女の料理より割高で、なおかつ自分が劣っていると評価した料理を、彼女に食べさせる理由が思いつかなかったからだ。
高いコストで低い評価の物を、一番心を傾けている彼女に与える。
ひどく、合理的じゃない。
外食に連れて行ってやりたくとも、自分が思う「美味しいもの」は彼女の手料理なのだから、連れて行ってやることも作ってやることも出来はしない。


自分自身、こんな面倒くさい思考回路に辟易する。
こんなに喜んでくれるのなら、自分の価値観など捨て置いて彼女を食事に誘えばよかった。


まだ二人がただの同居人としてこの部屋に存在していながら、相澤が勝手に一人の異性として彼女を見ていた頃。
抱え込んでいた向への恋慕の情が後ろめたさを助長して、相澤は彼女と二人並んで街中を歩く事すらしてはならないような気がしていた。
周囲の目が、二人を「そういう関係」だと認識してしまうと思い込み、出来る限り人目に触れる場所へ彼女と出かけるのを避け続けていた。
開き直ってしまえるようになったのは、つい最近のこと。
期末テスト後に倒れ目が覚めた彼女に、また共に在り続けることを許された時からだ。
世間が二人を「恋人」だと認識するわけがない。
そう結論づけてしまえば、気楽なものだった。


「車で行くか」
『お酒飲まないの?』
「飲まない」


出かける直前。
相澤が彼女に車のキーを渡しながら、ふと考えた。















もしかすると

















「……。」
『…?』

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