第68章 後の祭り
ヒグラシの鳴く夕方。
爆豪と上鳴と一緒に、帰路についた。
まだ夏休み二日目だってのに、夏の夕方ってなぜか気が急かされる。
今日一日、すげぇ楽しかったはずなのに。
何にもしてない気がする。
そう思うのはなんでだろ。
考えて、すぐにわかった。
今日、向と少ししか話してない。
せっかく、夏休みに会えたのに。
林間合宿まで、あと何日だ?
あと何日待てばあいつに会える?
爆豪は、ほぼずっと向と話してた。
上鳴も何かあると、すぐ向に話題を振ってた。
じゃあ俺は?
爆豪と轟に困らされてる向見てたら、いつも助けなきゃって身体が動くのに。
今日は全然、動けなかった。
………漢らしくない。
なんでかなんて、理由は分かりきってる。
プールに入って、すぐ。
俺は向を見つけて嬉しくなった。
飛んできたボールが爆豪の顔面に直撃したのを見て、腹を抱えて笑っていたら。
声をかけるのが一瞬出遅れた。
その瞬間、聞こえてきたのは。
『勝己、おはよー』
思ってしまった。
(…………あれ、俺は?)
そのあと彼女は俺に視線を向けて、おはようと言ってくれた。
ほんの一瞬の出来事だ。
ボールがぶつかったかどうかの違い。
名前を呼ぶ順番が、先か後かの違い。
「クソが!勝負の邪魔しやがって…!」
「…まあ落ち着けよ」
悲観的になるようなことか?
そんなに焦んなきゃいけないことか?
自分でも馬鹿馬鹿しいと思う。
けど、プールの話を知った午前中とは一変して、俺は酷く落ち込んでいる。
絶対考えちゃいけないのに
俺はあの時、一瞬考えた
プールでじゃれ合っている二人を見て
たしかに、考えた
爆豪、いなくなればいいのにって
(…俺)
最低だな