第68章 後の祭り
50m自由形3組目。
コースを仕切るコースロープフロートの上、個性を使って直立不動のまま他を出し抜いて独走するという一見奇妙な展開を作り上げた飯田を、全身強化の個性を使い、ものすごいスピードで泳ぎ始めた緑谷が追い上げた。
接戦の末、先に手がついたのは緑谷だ。
「すげえ緑谷!!」
「飯田も惜しい!!」
1組目の予選通過者、爆豪。
2組目の予選通過者、轟。
3組目の予選通過者、緑谷。
以上三名が出揃い、緑谷の呼吸が整い次第決勝戦が開催されることとなった。
「深晴ー!」
『……ん?』
女子に混ざって観戦していた向の隣に、上鳴が駆け寄ってきて腰掛けた。
「あの非常口のマーク、なんか思いださね?」
『……非常口?』
向が上鳴に指さされた方を眺め、じっと非常口のピクトグラムを眺める。
数秒考えた後、首を傾げた向。
上鳴は「ほら!食堂の!」とヒントを出してくる。
『……食堂の?』
「あれ?おまえ飯田の非常口のマーク見てねぇの?」
『………非常口』
キョトンとする向を見て、上鳴が数秒真顔になった後。
まぁいっか!とパッと笑い、別の話題を振ってきた。
ショッピングモールがどうの、近所の公園がどうのとコロコロ話を変える上鳴と談笑している間に、緑谷がオーケーサインを出したらしい。
向は、決勝へ進出した三人がスタート地点へと歩いていく光景を眺めていた。
『……?』
「位置についてーー」
よォい、という言葉が耳に入ってくるのと同時。
少し離れた所から、じっと。
向を見下ろしてきている切島と目が合った。
「『ーーー。』」
ゲームスタートの合図と同時。
緑谷だけが飛び込んだにしては、大きすぎる破裂音がした。
「個性が消えた!?」
また空中を飛ぶか滑るかするだろうと思われていた爆豪と轟まで、緑谷と並んで水中に姿を消してしまった。
その異変に気付いた面々がプールの出入り口に視線を向けると、髪を逆立てた状態の担任がそこに立っていた。
「17時。プールの使用時間はたった今終わった。早く家に帰れ」
「せっかくいいとこなのに!」
なんか言ったか?とドスの効いた声を発する担任に。
クラスメート全員が、即座に答えた。
「「「なんでもありません!!」」」