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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第69章 君を留めた日々




彼女のベッドの上で横たわり、目が覚めて。
一番初めに目にするものは。
彼女の安らかであどけない寝顔。
一番初めに考えることは。
今日の自分の予定と、彼女の予定。
身体を起こして。
一番初めに発する言葉は。
深晴、という響きが綺麗な彼女の名前。
俺の声に呼び起こされて、彼女がゆっくりと瞼を押し上げる。


『…おはよ、消太にぃ』
「…おはよう」


面白いことがあるわけでもないのに、彼女は俺に向かって微かに微笑む。
俺はそんな彼女の髪を撫でて、軽く息を吐く。
朝ごはん、何食べようか。
そう問いかけられた言葉に思考を巡らせる間。
俺は無言で、彼女を抱きしめる。
なんでもいい、といつものように返答をして。
なんでも嬉しいってことだね、と軽く彼女が返した言葉に、ただただ頷いた。









あぁ、もうすぐ










合宿が始まってしまったら










こんな幸福な朝は、しばらく訪れない













友人と談笑する彼女を遠巻きに眺めて。
まるで自分は他人のフリを決め込まなくてはいけない。
一番近くに在ることを許されているのに。
しばらくは、名前すら呼んでもらえない。
あぁ、とても。
とても。


「…今日」
『…ん?』


一日、一緒に。
そう言葉にすると、彼女は柔らかく笑って。
それもいいね、なんて言葉を返してきた。


「何か予定でもあったのか」
『ううん、何も』
「……。」


なら、その言い方はおかしい。
何か別の過ごし方を思い浮かべていたのかと思った。
あまり、嬉しくないのかと勘ぐった。


「…。」
『…不服そうだね?変なこと言った?』
「……いい」
『んー?』
「仕事を思い出した」
『あぁ、それは一大事だね』
「…休日出勤だな」
『お忙しいこと』
「……。」


俺はだいぶ不貞腐れた顔をしていたらしい。
深晴が今度こそ俺の顔を見て面白く感じたのか、クスクスと笑った。


『休日出勤かぁ、残念だ。せっかく一日二人で一緒に過ごせると思っていたのに』
「…残念そうに聞こえない」
『あー残念だー昼ご飯は一人前だけ用意かなこれは』
「利点にしか聞こえない」


とても寂しいよ、と深晴が楽しげに笑う。
そんな彼女と額を合わせ。
視線を交わして、数秒。
触れた彼女の唇に。
離れがたい欲求を煽られた。

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