第68章 後の祭り
『…ごめん』
「…否定しねぇのか。なんで避けてる」
『……避けてるつもりは…友達の距離に戻っただけだよ』
「俺がそれ以上近づいてたみたいな言い方だな」
『………』
向はかがめていた身体を起こし、完全に視線を轟から外して、他のクラスメート達へと向けてしまった。
『……ごめん』
「………!」
その違和感に彼女を引き止めようとした時、緑谷たちと何やら話し込んでいた爆豪が振り返り、「もちろんおめぇもだ!半分野郎!!」とよく話の流れがわからない言葉をかけてきた。
「…なんの話だ」
つい、近くを通りすがった口田に問いかけてしまい、彼が必死にジェスチャーで轟へと話の内容を伝えようとしてくれる。
5本指を立てた右手と、グーにした左手。
クロールしているように見える口田。
自由を表現し、鳥が飛ぶ真似をした後。
一位を争うんだよ、と口田がやりきった感満載の顔でビッ!と人差し指を立ててみせた。
「……50人のスイマーが羽ばたいて天に召された?口田、そんな大惨事笑顔で言うことじゃねぇだろ」
(全然伝わってない……!!!)
話に乗り遅れた轟を置いて、口田を含めた最初の一組目がスタート地点に並ぶ。
八百万の笛でプールへ飛び込んだ集団を嘲笑い、爆豪が「爆速ターボ!!」と完全に空中を飛び抜いて50m先のゴール地点に降り立った。
「どーだ!!このモブども!」
「どーだじゃねぇ!!!」
「泳いでねぇじゃねぇか!!!」
「自由形っつっただろうが!!」
その様子を見て、ようやく口田のジェスチャーの意図がわかった轟が納得した。
あわやサイコパス扱いされるところだった口田は、プールから戻ってくると、二組目に数えられていた轟の背を押した。
何やら不機嫌そうに、口をつぐんだままの轟。
一瞬だけ、轟は珍しく爆豪を理由なく睨みつけた後、笛の合図と共に、飛び込み台から飛び出した。
そして氷結でよく滑る氷の滑走路を生み出し、爆豪の記録に張り合うかのようにものすごい勢いで飛び出していく。
「だぁから泳げって!!!」
予選二組目の一位通過は、轟が勝ち取った。
降り立った途端ツッコミを入れられようがお構いなしなのか、轟は異論を申し立ててくる上鳴を一瞥した後、向に視線をやった。
目が合った瞬間、パッと視線をそらした彼女を見て、また轟の表情が曇っていく。