第67章 フライング夏休み
「一番の理解者に」
(一番の理解者に)
緑谷が考えた言葉と被るように。
隣に座っていた轟が言葉を発した。
「……え?ど、どうして考えてることわかったの…!」
「あいつにそう言ってからもうだいぶ経つ」
「…………えっ、轟くんが言ったの!?向さんに!?いつ!?」
「……だいぶ前」
「なんで!?こ、くはくってこと!?」
「…緑谷」
声がでけぇ、と轟が嗜めるのと同時、告白!?と食いついてきたのは干からびた魚のような死んだ目をしていた上鳴だ。
「告白したん、轟!?いつ!?」
「………」
「ご、ごめん轟くん…!」
「…別に、隠すことでもねぇよ。5月だ」
「「もう2ヶ月経ってる!!!?」」
それであんなにグイグイ押していたのかと、上鳴が「恐ろしい子…!」と小指を立ててやたらとキラキラしたつぶらな瞳で轟を見つめる。
知らない間に更に向こうの向こうの向こうへ行こうとしていた轟を知り、緑谷は白眼になったまま動かない。
「えっ、付き合ってないよな!?」
「……まだ」
「まだ!?振られといて「まだ」!?なんなんその強靭なメンタル!」
「…そう簡単に諦めつくなら、最初から言ったりしねぇだろ」
「いやたしかにそうだけど…知らなかった、実はもうそんな攻防戦が繰り広げられてたなんて…!」
「えっ、爆豪は!?」
「…あいつのことは知らねぇよ。そもそも、深晴は誰かと誰かの間で揺らいでるから、誰とも付き合わねぇわけじゃねぇだろ」
「「そうなの!?」」
缶を飲みきり、腰を上げた轟。
引き止めようと、彼の海パンの腰部分をガッと掴んだ上鳴が危うく海パンをずり下げてしまいそうになり、容赦なく氷結の餌食となった。
「ヒャー冷たーーって、…あっ…気持ちいい…」
「……今の、わざとだろ」
「わざとじゃねぇって!やめて顔面まで凍らせようとしないで!!」
「轟くん、さっきの…どういう意味?誰とも付き合わないって向さんが決めてるってこと?それとももう誰か…いるってこと?」
「……さぁな。俺よりおまえの方が答えてもらえるんじゃないか」
「へっ!?」
「最近、おまえらよく目配せしてるよな」
なんでだ。
そう言って、見下ろしてくる轟の目からは。
暗く滾った緑谷への嫉妬がありありと見て取れた。