第67章 フライング夏休み
なんだか、申し訳ない気分になっていく緑谷の心情には気づく様子もなく。
轟は緑谷の隣に腰掛け、先ほどまで緑谷と目が合っていた向の後ろ姿を見つめた。
「…珍しいな」
「え?…あぁ、ポニーテール?」
「…違う。おまえが当日に、クラスの連中に収集かけることが」
「……えっ、あっそそそうだね!?ごめん向さんのこと見てるからそういうことかと思って本当ごめん、えっと実は僕も午前中に声かけられて初めて聞かされたから、あっ、午前中っていうのは今日のことでだから急な誘いになっちゃって申し訳ないんだけどみんな来てくれてよかった!!!!」
「…すげぇ喋るな」
「騒々しくてごめん…!」
あわあわとする緑谷を横目で見た後、轟はまた嬉々として向とボール遊びに興じている八百万を眺めた後、眉間にしわを寄せた。
「…緑谷」
「はい!?」
「………。」
おまえ、誰かに嫉妬したことあるか。
そう俯きながら問いかけてくる轟の横顔を見て、緑谷は一瞬だけ、その言葉の意味を考えた。
「嫉妬ってどういう?」
「……焦る感じだ」
「焦る…?うーん…いつも焦ってはいるかなぁ…皆を見てると、もっと頑張らないとっていつも思うし」
「…多分それじゃない」
「えっ。……あ、そっか」
好きな子に対する?
と轟に聞いた緑谷は、自分で恥ずかしくなってきたのか、まるで熱中症になったのではと思えるほど赤面した。
「…嫉妬…うーん…それ、はあの…答えづらいなぁ…」
「同じ相手だからか」
「うっ!!………ごめん分不相応で…」
「…別にそんなこと言ってねぇ」
飯田から貰った差し入れのオレンジジュースを開けて、轟が少しだけ黙った。
なんだかぎこちない緑谷に一瞬視線をくべた後、ようやく彼は話し出す。
「…女子に」
「…え、うん」
「…女子に、嫉妬は?」
「……女子に?え、基本好きな子って女子だよね」
「……その女友達だ」
話しづらそうに、ポツリポツリと。
轟は言葉を選び、緑谷に問いかけてくる。
眉間にしわを寄せたままの轟の横顔を見て、緑谷はようやく彼の質問の意図が理解できた。
「…もしかして、轟くん…えっと、好きな子の女友達にも嫉妬する…?」
「………………。」
悪いか、と一言だけ返してきた轟に。
緑谷は口を開けたまま、固まった。