第67章 フライング夏休み
「プールで体力強化するから、みんなも一緒にどう?ってメールしておいたんだ!」
「そういうことか…!真面目かよ緑谷…っ」
「落ち着け上鳴、ここに水着姿の女子がいることは間違いねぇ…!」
(この目に焼き付けるぜ…っ)
(新しく買った水着を……!!)
まだ望みは失われていない。
更に、向こうへ!!と振り返った二人の目前。
プールを挟んだ向こう側には確かに、6人の女子と、宙に浮かんだ1着の水着が存在していた。
「あら、峰田ちゃん」
「上鳴も来てたんだ」
イッチニ、サンシという麗日の元気な掛け声に合わせ、ぴっちりとした競泳用の水着に負けず劣らずの機能性を誇る雄英のスクール水着を着た女子たちが準備運動をしている。
(なんっだよその水着は…ビキニ着ろよビキニ…!)
完全に希望が消え失せたと悟り、愕然とする上鳴の隣。
峰田が「スク水も、ええですなぁ…」と朗らかな感想を述べる。
同じ場所に存在してはいても、女子はボール遊び、男子は体力強化とプールの使用目的は分かれてしまっており、まるで教官のように男子の訓練スケジュールを時間できっちり数分単位で管理してくる飯田のせいで、どさくさに紛れて女子と触れ合うことが許されない。
「あぁ…っこんなに目の前に青春の1ページが転がっているのに…!」
「すぐそこにあるのに触れられない、禁断の果実感がやべぇ…」
休憩に入るたびポエマーのようなコメントを残し、悲しみに打ちひしがれている上鳴と峰田。
緑谷が首を傾げ、その二人の視線の先を辿った時。
夏休みの間、林間合宿まで会うことは叶わないだろうと思っていた彼女と、目が合った。
(…あ。髪型がいつもと違う)
プールサイドにあがり、珍しくポニーテールに結んだ髪を揺らして耳抜きをしていた向。
反対側のプールサイドに座っていた緑谷と視線が交差した後。
彼女はいつものように穏やかな笑みを浮かべ、軽く手を振ってくれた。
「……っ」
ちょっとだけ、気恥ずかしくなりながら手を振り返す。
うつむいて視線を逸らし、また顔を上げると。
そこにはジッと緑谷を観察するように見下ろしてくる轟の姿があった。
「う、わっ!」
「…緑谷」
「…何?轟くん」