第66章 返答は、また後日
<一対一は、相手に期待させるから>
そう言った彼女の言葉に、僕は最低だと思いながら。
心からほっとした。
「…そっ…か…かっちゃんも、そう?2人で遊びに行ったってネットニュースにあがってたよね。夏休みにも会うの?」
<あれは出先で出くわして、捕獲されてた。でも色々選んでもらって助かった。勝己も誘ってくれてるけど、流してるなぁ>
「切島くんとか上鳴くんは?あ、飯田くん!」
<あの2人はいつもセットだから、一対一って話にはならないね。天哉は一度勉強会の話があがったけど、勝己に却下されたな>
「……じゃあ……」
相澤先生は?
一番聞きたくて、一番聞きたくない。
けど、電話越しなら聞こうと思えた。
だから問いかけた。
彼女は少し押し黙った後、ため息を吐いて言葉を発した。
<ははは、たくさん質問してくれるのは…弔の話からすると、なるほど。出久はまだ私と話していたいと思ってくれてるのかな>
「………!」
その時、僕の心に飛来したのは。
ははは、という笑い声から。
彼女が何かを誤魔化したんだなという確信と。
弔、という呼び方から。
ヴィランにもそんな親しげに名前を呼ぶのか、という怒りにも似た違和感。
そして。
話していたい、という本心を暴かれたことに対しての、バツの悪さ。
「…そう、だよ」
また、からかうような彼女の言葉に、僕は精一杯の言葉を返して息を整えた。
彼女は少し黙った後。
<…素直だなぁ。個性もそんな風に、素直に渡してくれればいいのに>
なんてまだ諦めていないようなことを口にするから、僕は話題をまた彼女のことに戻す。
「…自惚れだったらごめん、でも…僕と接してる時と、他のみんなと話してる時の向さんって少し違う気がする。本当にそうなら…どっちが本当の向さんなの?」
<どっちでも良くない?>
「…良くないよ」
<どうして>
「だって、君が…僕に見せてる一面が本物なら、僕は…その……嬉しいと思うし、だだだから…っ教えて欲しいというか…!」
<……。>
「…嬉しいと思う半面、心配にもなるだろうけど…僕に見せてる君はとても不安定で危なっかしくて、すごく自暴自棄で…放っておいたらいけない気がするから」
思いの丈を述べたとしても。
彼女は電話の向こうでクスクスと笑うだけ。