第66章 返答は、また後日
だいたい何でも気にいらないんだけどさ。
買い物客の為に設置された休憩用のベンチに腰掛けるや否や、そう話し始めた死柄木は、まるで世間話でもするかのようにボソボソと口先だけを動かして言葉を紡ぎ続ける。
額から脂汗が伝っている緑谷は、やけに乾燥した彼の指先の圧力を確かに首に感じていた。
ザラザラとしてささくれた死柄木の指先。
首の圧迫感と、ヴィランとの予期せぬ遭遇というシュチュエーションに気圧され、緑谷は次第に呼吸がしづらくなっていった。
「いくら能書き垂れようが、結局奴も気に入らないものを壊していただけだろう」
誰も俺を見ない。
そんな不満を口にするヴィランに、言葉を返す気にはならず。
ただただ、どうにかこの窮地を脱する術はないのかと緑谷は目線だけで周囲を見渡した。
「あぁ…ところで、リュック背負って何しに来てたんだ?ごめんごめん、せっかくゆっくり話すならおまえの話も尊重してやらないとな?」
「…何を、しに来てたっておまえには関係ないだろ…!」
「関係ないねぇ…聞いてはみたけど正直どうでもいいからなぁ。知ってるか緑谷、相手にもっと話したいと思わせるにはさ…自分が喋るより相手に喋らせた方が効果的なんだってさ」
「なんの話だ…!?何が言いたい…!」
「恋愛の話さ。おまえら好きだろ、健全な高校生っていうのはそういうの。暇さえあればデートに遊び、こっちはヒーロー殺しに鼻へし折られたってのに呑気なもんだよな。ヒーローの卵どもはさ」
俺ら日陰者の方が、真面目に勤勉に、働いてるぜ?
そんな嫌味を口にして、少しだけ楽しげに死柄木が笑い声を漏らす。
ふざけた物言いに緑谷が言い返したくなり、死柄木を睨みつける。
グッと力の込められた指先に、一瞬。
緑谷が怯んだのを見て、死柄木は尚更笑みを浮かべる。
「おいおい…いいのかそんな喧嘩腰で。もしも俺がおまえに有益な情報を落としに来てたんだとしてたら、おまえどうする?」
「有益…?」
「なんか釈然としないことばっかりでさ…機会があればおまえらの日常をぶっ壊してやろうといつもいつも思ってた。でも残念だよなぁ…先週までなら、むしゃくしゃしてた俺から耳寄りな情報を聞けたかもしれないのに」