第65章 クソ可愛い
「その気がなくとも、深晴さんは目的の為なら苦渋の決断をすることも厭わない方です!」
『百その言い方だと私、ものすごく冷徹な女に聞こえる』
「じゃあやっぱその気があったってことじゃねぇか!!何簡単にコロっと流されてんだブッ殺すぞ!!」
『なんでそこまで極端なの?そこまで私情だけで手繋いでたわけじゃないよ』
「深晴、悪ぃ。そこまで悪い気はしてねぇだろと思ってた。勘違いだったなら謝る」
(…どうして)
人の注目が集まっている時に、答えづらいことを聞いてくるんだろう。
謝ると言われたって、人がいる場所で彼に謝らせたくなどないし。
そもそも、これだって彼の言う通り。
向自身、そこまで悪い気はしていなかった。
『いや……あの……そんな、謝ることじゃないよ』
珍しく向が狼狽えている姿を見て、また爆豪がイラついた。
轟はどっちとも取れるその向の発言に、聞き返す。
「謝んなくていいってことは、悪い気はしてなかったってことか」
『んん、そういうことじゃなくて。試験中の事でそんな非はないっていうか』
「じゃあもう手、繋ぐのは無しか。試験じゃない限り」
『そうだね!?付き合ってるわけじゃないし!』
「…。付き合ってなきゃダメなんだな」
『そ、うだね』
「…そんなの」
「そんなの、皆どうやって我慢してんだ?」
爆豪に視線を向け、問いかける轟に。
「…は?」
目を吊り上げて轟を睨みつけていた爆豪が気の抜けた声を発する。
話を聞いていた周りのクラスメート達は顔を真っ赤に染め、轟の至極真面目な表情に茶化すことすら出来ず、口をあんぐりと開けた。
「…変なこと言ったか」
「とっとと轟くん、あの」
そういうことは、あんまりみんな思っても口に出さないんじゃないかな?
と、不思議そうにしている轟に緑谷が教えてあげると。
轟は、そうか、とようやく周囲の視線に気づき。
向をじっと熱のこもった目で見つめて、少し恥ずかしそうに謝ってきた。
「……悪ぃ」
微かに赤らんだ彼の顔を見て。
向は「忘れる」と彼に約束した、自身の言葉を思い出し、罪悪感をひしひしと感じながらも。
思わずにはいられなかった。
(クソ可愛い…!)