第65章 クソ可愛い
「…林間合宿前、空いてねぇのか」
『空いてないっていうか…その、あんまり予定入れたくなくて』
「何で」
『な、何で?あまり出歩くの、良くないかなって。学校側としても、危険視してるみたいだし』
「だからって夏休み中ずっと家にいんのか?…さぞ、有意義な夏になりそうだな」
詰るような轟の視線と言葉に、向は膝に両手を置いたまま、俯いて視線を合わせない。
「…試験で何で倒れたかも、教えねぇよな。何でだ」
『風邪だったんだって、熱があって』
「俺はおまえに触れてた。ぶっ倒れるほど熱があるんなら、気づいてたはずだろ」
『…わからないけど、気づかなかったんじゃないかな』
「……。俺のせいか?」
『えっ?』
「気づけなかったなら、俺のせいだよな。おまえが言ってることが正しいならそうなるが、それでいいのか?」
『……。』
以前、相澤に対しても同じようなことをした。
自分が答えられないことを隠すため、誤魔化した。
ようやく最近思い至ったことだが、向の知らないところで彼はその言葉で深く自分を追い詰めて、傷ついていた。
向が倒れたのは、触れていても高熱に気づかなかった轟のせい。
そんなわけはない。
そもそも、彼が言う通り自分に高熱など無かった。
ここで頷いてしまえば、また同じことを轟にも繰り返すことになる。
『…そ、れは…違うよ』
「そうか。なら何でだ」
淡々と問い続けてくる轟に、向が閉口した時。
じっと会話に耳をすませていた爆豪がガタッと席を立ち、轟を睨みつけた。
「おい」
「…何だ」
「触れてたってどういうことだ」
また新たな爆弾の導火線に火がついたことを向が感じ取り、ウッと顔をしかめた。
そんな窮地を察してか、向を遠目に見つめていた八百万が爆豪を制止する。
「爆豪さん、勘違いなさらないでください。試験の内容が皆さんとは特殊だったため、深晴さんは仕方なく轟さんと手を繋いだに過ぎません」
「…仕方なく?…おまえ、試験中からやたらと突っかかってくるよな。なんなんだ」
「何がどうなって手を繋ぐことになるんだオイ…!?どんな特殊な実技試験してたのか、教えろや…!?」
「そんな下品な言い方はよしてください!」
「その気がなきゃ試験だろうがなんだろうが手なんか繋ぐかよ!!!」