第66章 返答は、また後日
「明日祝日だし、テスト明けだし…ってことでA組みんなで買い物行こうよ!」
テスト返却が一部だけ終わった月曜の放課後。
そんなことを言い出したのは、声色でなんとなく、微かに、もしかすると笑っているんじゃないだろうか、と周囲が推察できるほどの圧倒的な透明度を誇る葉隠だ。
「おお良い!何気にそういうの初じゃね!?」
「向も行くだろ?おい爆豪、おまえも来い!」
「轟くんも行かない?」
話題が上った集団付近にいた上鳴、切島、緑谷が振り返る。
三人の視線の先には、休み時間の度に向の座席の周りで火花を散らし続けていた爆豪と轟、ウンザリとした顔をしている向だ。
HR直後、修羅場を迎えつつあった三人は授業開始のチャイムのおかげで事なきを得た。
しかし休み時間の度、果敢に「夏休み中も会いたい」と向を攻め続ける轟の襲来に、番犬のような爆豪が吠え続けている。
「向、こっち来いこっち」
頭上で言葉の応酬を続けている爆豪と轟の騒音被害を受け続けていた向に、切島が手招きして声をかけた。
『なんだい、心の友よ』
「モテんのも大変だな」
『…ははは、八方美人だからかな』
「すげー自信だな、たしかにどっから見ても可愛いけどさ!」
「いや上鳴、言葉の意味違う」
「え?」
「向、買い物行くだろ?クラスみんなでさ」
きっと、彼女は目を輝かせて話に乗ってくるだろう。
そう思っていた切島の予想を裏切って、向は『いつ?』と日時を確認してきた。
「明日!」
『…明日…は、先約あるから、行けないや』
「えっ、マジか珍しい」
「えぇええ行こうぜ、先約ってどんな!?」
『ははは、ないしょ』
「「なんで!?」」
さてはついに彼氏か!?
と叫び、ハッとした上鳴の背後で、切島が轟と爆豪にストップをかける。
「で!?行くのか爆豪!」
「行ってたまるかかったりィ」
「轟くんはどうする?」
「休日は見舞いだ」
「ノリが悪いよ、空気を読めやKY男共ォ!!」
物申した峰田を、轟と爆豪がものすごい眼力で見下ろす。
申し訳ございませんでしたと土下座する峰田を横目に、向はようやく平和になった自分の座席へと、爆豪と轟を置いて戻っていってしまった。