第65章 クソ可愛い
「合理的虚偽ってやつさ」
懐かしい言葉を口にして、珍しく上機嫌なのか、二度も活き活きとした笑顔をカッと浮かべる相澤に、まだ喜びを表現したりなかったらしい芦戸、砂藤、切島が「ゴーリテキキョギィイー!!」と魂の叫びをあげる。
ようやく魂が舞い戻ってきた上鳴を加え、絶望から救われた4人と、残念さと喜びの葛藤入り混じる瀬呂がわあい!!!と席を立ち、集まって万歳をし始める。
(ああ、また席なんて立ったら怒られ……あれ?)
ハラハラとする緑谷の視線の先。
笑みを消しこそすれ、「席を立つな、話の途中だ!!!」とブチ切れるのではないかと予想されていた担任は、珍しく怒ろうとはしない。
(…なんか、あったな)
そんな騒々しいクラスメートたちと、担任を見比べていた轟は、少し表情を曇らせる。
「またしてやられた…!さすが雄英だ!」
わなわなと震えながら、担任の発言に一貫性が見られないことを飯田が危ぶみ、起立して挙手しながら発言する。
「しかし!二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!」
「わあ水差す飯田くん」
彼の後ろに座っている麗日がうららかに笑みを浮かべながら、ざっくりと飯田を嗜める。
虚偽を重ねられると信頼が揺らぐ。
そんなプライベートでも身に覚えのある指摘に、相澤が一考し、言葉を返した。
「…確かにな。省みるよ。ただ全部嘘ってわけじゃない」
赤点は赤点。
そう言い切った相澤に、歓喜の舞を踊っていた5人が動きを止め、視線を向ける。
「おまえらには別途に補習時間を設けてある。ぶっちゃけ学校に残っての補習よりキツイからな。じゃあ合宿のしおりを配るから後ろに回してけ」
HRが終わり、一時間目が始まる直前。
生徒たちの話題は、赤点がないと分かりきっているテストが返ってくるだけの期末テストよりも、来たる夏の林間合宿へと移行していく。
そんな中、テストの問題用紙を机に出した向の元へ轟がやってきた理由は、演習試験で向が倒れたことについての心配からと、もう一つ。
「深晴、予定合わせたい」
『…あー、まだ予定わかんないんだよね』
「……。」
メッセージで届く轟からの遊びの誘いに、彼女がうまく話をはぐらかし、拒み続けている日程調整に終わりを迎えるためだった。