第65章 クソ可愛い
同情するならなんかもう色々くれ!!
なんて泣き叫ぶ上鳴に、向が手に持っていたポッキーを一本彼に差し出した。
ムシャァ!!と彼が食らいつくのと同時。
「予鈴が鳴ったら席につけ」
カァン!と力強く開け放たれた教室の前方の扉から、「林間合宿」と書かれた栞を片手に持った相澤が現れた。
未だ浮かない表情で、補習地獄がすぐそこまで忍び寄っている四人が席へとトボトボ戻っていく。
他の生徒たちはこれから来たる林間合宿の話や、夏休みの過ごし方についての会話を切り上げ、教壇に立つ担任を眺めた。
「おはよう、今回の期末テストだが…残念ながら赤点が出た。したがって…」
一瞬。
静まり返った教室の前方。
神妙な面持ちで言葉を続けていた相澤が、パッと笑って言葉を発する。
「林間合宿は、全員行きます」
「「「「どんでんがえしだあ!!!」」」」
沈んでいた四人の叫びが教室に木霊し、類い稀なアホ面で硬直したままの上鳴がその表情のまま、隣に座る向を見る。
ブッハ!!と噴き出した向の声に被せるように相澤が言葉を続けて、赤点者の実名を発表する。
「筆記の方はゼロ。実技で切島、上鳴、芦戸、砂藤、あと瀬呂が赤点だ」
「行っていいんスか俺らあ!!」
筆記の赤点者がゼロという言葉を聞き、向はパアッと顔を綻ばせて、左隣に座る爆豪を見た。
机に肘をつき、向と目を合わせた爆豪はハッと鼻で笑うと、「俺が教えてやったんだから当たり前ェだろ」と少し自慢げに笑みを浮かべた。
『とても有り難い…でも、あ…肝試しか…ちょっとそこだけは困るなぁ』
怖いなぁ、と呟いてシュンとする向。
彼女を横目で見ていた爆豪が真顔で。
(クソ可愛い)
と思った後。
今世紀最大のアホ面で呆然としたままの上鳴が、ちょうど彼女の横顔と被らない位置から爆豪を見つめてきていることに気づき、ブハッと爆豪が噴き出した。
確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんな…と恥ずかしそうに顔を両手で覆った瀬呂がぼやいた後、相澤は咳払いをして話を続ける。
そもそも林間合宿は強化合宿。
赤点を取った生徒こそ、ここで力をつけてもらわなきゃならない。
そう担任が説明する間、夏の大イベントに参加できないと諦めていた四人は喜びに打ち震え続けていた。