第65章 クソ可愛い
独特なローテンションで会話を続ける二人に、緑谷がどう割り込んでいいものかと判断に困る。
倒れた原因ってなんだったの?
そう聞きたいだけなのに、向の頬に目がいって、自分がしでかしてしまったキスシーンを思い浮かべずにはいられない。
視線をとりあえずそらそうと、楽しげに「萌えポイント」なんて聞き馴染みのない話題について語り続ける向と耳郎の背後。
一際、悲壮感漂う四人の集団を目にした緑谷は、ワッと驚いた声をあげた。
「緑谷…おはよ……」
「切島くん、おはよ……って、芦戸さんたちもどうしたの!?」
「…どうしたもこうしたもねぇよ…このメンツ見て何も思い浮かばねぇのか…?」
ただただ立ち尽くし、地面を一点集中して見つめ続ける上鳴。
目に涙を浮かべ、鼻をすすっている芦戸。
瞑目したまま、天井を見上げ続ける砂藤。
口をキュッときつく結び、俯いて目を瞑ったままの切島。
(…あ、このメンツは)
その珍しいメンツで集まったまま会話なく黙り込み続けて立ち尽くす四人には、共通がある。
「皆…土産話っひぐ、楽しみに…うう…してるっ…がら!」
期末試験、実技テスト直前。
花火に肝試し!と楽しみでしょうがないといった様子で声高に騒いでいた芦戸は、今やそんな笑顔は見る影もなく悲しみに打ちひしがれている。
彼女は、上鳴と臨んだ根津校長のハイスペック実技テストに為すすべなく不合格になっており、赤点確実な生徒の一人だ。
「まっまだわかんないよ、どんでん返しがあるかもしれないよ…!」
「緑谷、それ口にしたらなくなるパターンだ…」
あせあせとフォローする緑谷の肩に、瀬呂が手を置くと同時。
瞬きすらなく、何もない地面の一点だけを見つめて、一体何を凝視しているのか分からない不気味な雰囲気を醸し出していた上鳴が、ゆらりと一歩踏み出した。
「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに補習地獄!そして俺らは実技クリアならず!これでまだわからんのなら…っ貴様らの偏差値は猿以下だァアア!!」
キェエエと奇声を発し、フォローしてくれた緑谷の優しさを台無しにする形で、上鳴は左の人差し指でブスリと彼に目潰しをした。