第64章 イレイザー・イン・ヘッド
「…俺だって溺れていたかった」
ポツリと、返してきた彼の言葉に。
じゃあ、今はもう違うの?と問いかけると。
彼は少し俯いて、叶うのなら、と言葉を返した。
「ーーー…俺は…」
おまえの髪を、また乾かしてやりたい。
触れたいし。
求められていたい。
相澤はそう言葉を続けて、ひどく不愉快そうに眉間にしわを寄せた。
「…おまえは、俺の事はもはや何とも思ってないし、轟と爆豪に夢中みたいだが?」
『…夢中に見えるの?』
「気があると思ってる」
『ちょっとだけね』
「笑って言うな、悪魔か」
『ちょっとだけだよ』
「ちょっとだろうが何だろうが許さん」
『それってどんな立場から?』
「………」
『兄、保護者、親戚…それとも』
教師、と言おうとした向を、相澤が抱きしめるように倒れこんできた。
『…リカバリーガール来たらどうするの』
「目眩がしてると言えば良い」
『相変わらずよく頭がキレますね…』
「おまえの恋人になりたい」
『………。』
「…今許されてるどんな立場にも甘んじたくない。自分に甲斐性がないことをようやく自覚した。おまえの将来の心配なんかする前に、自分の心配をすべきだった」
『…私の将来?どういうこと』
「…俺よりカッコ良い男も強い男もゴロゴロいるって話だ」
『………そんな人はいないよ』
いる、と言い返す相澤に。
向はもう一度。
貴方が一番かっこいいし、強い人だと思うよ、と答えた。
「………。」
無言になって、なぜか。
微かに瞳を潤ませる彼の頭を、向は優しく撫でた。
「………」
『……でも、ごめん。恋人にはなれないよ』
「……っまたそれか…どうして」
『何度でも言うよ。私は…貴方に釣り合わないから』
「俺が、釣り合わないならわかるが、その言い方はおかしい」
『おかしくないよ』
「その理由を話せ」
『…その気になったらね』
また煙に巻こうとする彼女を、相澤が睨みつける。
向は微かに笑い、相澤の頭を撫でた。
「轟と、爆豪は」
『……ん?』
「そのままか」
『……勝己もセットなのはどうして?』
「消してくれ」
『…「ちょっと」の気を?』
「頼むから」
気が狂いそうになる。
そう耳元でぼやいた彼の声に、息を吐く。