第64章 イレイザー・イン・ヘッド
「どうして、家の子どもに怪我をさせた?」
新幹線を降りて、車を運転し始めると、さすがに寝ていられなくなったのか。
彼は眠気醒ましも兼ねて、会合が開かれる原因となったその出来事について問いかけてきた。
『…正当防衛が過ぎて』
「確かに指の骨折はやり過ぎだな」
『そうですね。すみません』
「反省してないな」
『ははは、すみません』
「理由は?」
『……理由?』
「俺は君の「個性」を知らない。怪我させた理由も。反省させるかは、話を聞いてから決める。で?先に手出したのは?」
『………。』
「預かる以上、職業柄非行に走られると困るんでね。家に置くからには答えてもらうぞ」
淡々と、事情聴取を始める彼に。
(…警察かな?)
と、彼の職業を予想した。
『私の個性はベクトル変換です。怪我させた理由は、個性が暴発したからです。先に手を出したのは向こうです』
「で?なんで暴発させたわりに平然としてる」
『私から先に手を出したわけじゃないので』
「手ェ出したら一緒だ、反省しろ」
『………。』
「それと敬語は面倒だからやめろ、家でも使われちゃ気が滅入る」
『なんて呼びますか?』
「何が。あと敬語。俺は二度同じこと言うのが嫌いだ。一度言われたら二度目は直せ」
『…あなたの事はなんて呼べばいい?おじさん?』
「おじさん…」
絶句した彼に、私は内心焦った。
(…立場的に、似たようなものか)
話題を変えようとして、呼び名を咄嗟に考えた。
つい先日。
怪我をさせてしまった彼のことを思い浮かべながら、私は彼に命名した。
『消太にぃは何の仕事をしてるの?』
彼は赤信号で車を止め。
目を見開いて、私を見た。
「…ヒーロー兼教師」
『…教師?』
「…珍しい方に食いつくな」
『…ヒーロー?そっか、年収いいからお呼びがかかったんだね』
「個性もおまえを押しつけるには適任だからな。ある程度の生活費は親戚から受け取ってる。だから、おまえは生活費に気を揉む必要はない。だが代わりに、自分のことは自分でしろ」
『うん、わかった』
「…押しつけられたっていうのは言葉のあやだ。俺も同意した。だから…」
『…ん?大丈夫、それにしても消太にぃには感謝してもしきれないなぁ』
不束者ですが、よろしくお願いします
そう言った私に、彼は短く返事を返した