第64章 イレイザー・イン・ヘッド
演習場から帰るバスの中。
向は、やたらぴったりと密着して座ってくる轟と、八百万に挟まれて、最後列真ん中に座っていた。
(……暑い…頭がいたい…)
「…八百万、おまえ深晴に近すぎやしねぇか」
「轟さんこそ、やたらと深晴さんに近いのでは?試験とはいえ、簡単に手を繋ぐのも如何なものでしょう?深晴さんがノーと言わないからと言って、そう軽々しく異性に触れてはいけません!」
『んんっ、語弊があるかな!!?私はちゃんと、試験以外ではノーって言ってるよ!!!』
「…すげぇ声張るな…そこまで否定しなくても」
しょんぼりする轟を見て、向がハッとした。
何かフォローしなくては、と口を開き、言葉を発しようとしながら。
何となく、前方に座る相澤へ視線をやると。
(……めっちゃこっち見てる…めっちゃ目見開いてる…っ…目に潤いを与えてあげてよ、只でさえドライアイなのに…!)
片や隣で、悲しげにうつむき。
片や前方から、瞬きせず見つめてくる。
『…百』
「はいっ」
(…なんでこの子はこんなに近いんだ…?)
どう対処して良いかわからなくなり、女友達である彼女と談笑してお茶を濁そうとしたものの、異常なまでの距離の近さに気がついた。
両側から幅寄せされては、轟から離れることが出来ない。
『…ちょっと、失礼』
そう前置きして八百万側に身体を寄せると、プリプリと花を飛ばした八百万が、更に近寄ってくる。
(いや、なんで?)
でもまぁ同性だから。
八百万にぴったりとくっつかれながらも、さっき言いすぎたことに関してフォローしようと轟を見て。
彼の周りの空気が冷え切っていることに気づき、向はビクッと肩を揺らした。
「…八百万、同性だからってやたらとベタベタすんのはどうなんだ」
「何か問題がありまして?」
「あるだろ。…それは反則だ」
「なぜですか?分かりやすいように簡潔に、30字以内で述べてください」
「……。」
向を挟んで、ピリッとした空気が張り詰めた。
両サイドと前方から迫り来る圧力に、向は眉間にしわを寄せる。
「同性でも、あんまりベトベトされんのは見てて気分が良くない」