第64章 イレイザー・イン・ヘッド
しっかり30字以内に収めた苦情を読み上げた轟は、八百万に思いの丈を述べた。
「轟さんは、女友達に関しても嫉妬するという認識をしてもよろしいですか?」
なぜか挑発するような言葉を返す八百万に、向が『二人とも急にどうしたの』と困ったような声を上げる。
「ああ」
「女子同士ですら嫉妬するというのは如何なものでしょう」
「いかがって言われてもな…するもんはするだろ」
「…っ轟さんは、もう少しオブラートに包むということを覚えた方が良いかと」
「…なんでダメ出しになってんだ。俺はただ深晴からおまえが離れればそれでいい」
「離れたくありません」
「同性だからってお前だけ許されんのは違うだろ」
「帰りのバスも不毛なやり取りか」
後方に歩いてきた相澤が、二人に挟まれて眉間にしわを寄せていた向の腕を引っ張った。
「周りの迷惑を少しは考えろ」
そう釘を刺し、向の手を引いて。
相澤は自分が座っていた座席まで、彼女を連れて行った。
『…こっちはこっちでどんな顔すればいいか微妙なんですけど』
「いいから座れ」
先に腰掛けた相澤の隣に、向は恐る恐る腰を下ろした。
何やら珍しく眉間にしわを寄せたまま、首に巻いた捕縛武器に顔を埋める相澤を、横目で見て。
向は、軽くため息をついた。
「何だそのため息」
『…いえ、別に』
後ろの二人が、静かに言い争いを続けている声が聞こえてくる。
どうして急に仲が悪くなったのだろうと、振り返ろうとした向の左手を、相澤が握った。
(…頭が、痛い…)
運転手からも、後ろの二人からも見えない座席の上。
動き回っていたからか、熱くなっている彼の手が、まだひんやりとしている向の指を絡めとる。
(……冷てぇな)
窓際に肘をついて。
外を眺めたままの相澤は、いつもと違う彼女の指先の体温に憤った。
向は指先を絡め返してくることはなく。
ただ、その代わり。
(……!)
相澤の肩に。
急にもたれかかってきた。
(…オイ、さすがに)
背後の二人が言い争っていた声が一切聞こえなくなる。
一瞬焦った相澤が向の顔を覗き込み、目を見開いた。
「…向?」