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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第63章 十年目の片想い




(…なんで、指を絡める必要がある?)


大氷壁から、三人が出てくるのを待つ間。
相澤はイライラとしながら、捕縛武器をギリギリと握りしめていた。
手錠ではなく、足枷にすればよかったと後悔しても遅い。


「…!」


直後。
大氷壁の片側から、三人が黒い布を被って飛び出してきた。


「布かよ」


確かに見えなきゃ消せねえが、と少し呆れつつ、相澤は三人と距離を詰める。


「デメリットのがでかいだろソレ」


三人の上半身をまとめて拘束したと思った矢先、布の下から、屈んだ体勢の八百万が見えた。


「っ上半身だけマネキンかい!」


八百万がカタパルトに手を伸ばし、スカッとレバーを掴み損ねる。


(やることは…一つ!)


相澤が大きく跳び退き、三人から大きく距離を取ろうとした直後。
背後に向けて跳ぼうと地面を蹴ったはずの相澤は、垂直に跳び上がり、空中へと舞い上がってしまう。


(…っ深晴の個性か…!)


八百万と距離が取れず、着地するまでの猶予を作ってしまった相澤に向かって。
カタパルトから発射された、彼の捕縛武器とよく似た沢山の帯が絡みつく。


(…撹乱かな?)


「轟さん!地を這う炎熱を!!」


相澤の足に触れない遥か下を、轟の生み出した炎が駆け抜けていく。
一体何を目論んだのかと相澤が警戒を強めた瞬間。
聞きなれない音が、彼の耳に聞こえてきた。






ギチッギチギチギチ





「ーーー!?」
「先生相手に、個性での攻撃を決め手にするのは極めて不安…」


心配性だからこそ、思いついた最善の一手。


「ですから、ニチノール合金ご存知ですか?加熱によって瞬時に、元の形状を復元する……」


不安で仕方がなかったからこそ。
掻き集めたさまざまな知識。
向いていないからと、諦めて。
向いているものを探し求めて。
臆病な自分を変えようとはせず、目を逸らし続けてここまできた。
心配性で、小心者で。
何も変わらずここまできた。
だからこそ、ヒーローに向いていないという不安が湧き上がってきてからは、また自分に自信が持てなくなり、他人よりも劣っているという考えに蝕まれた。






(みっともない…)





けれど





(みっともない………!)












思い浮かぶのは。
西陽に照らされた、彼女の横顔。


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