第63章 十年目の片想い
「深晴さん、轟さん隠れるんです!先生の目、少し不安定になっているようです!時間さえあれば、私たちの勝ちですわ!」
「…時間…」
『個性使えないけど、どうするの?』
駆け出した八百万に続き、轟と向が走り出す。
「今から話す通りに!轟さん、常に氷結の発動確認を!」
「個性が使えない」は思い込み。
一瞬、必ず隙が生じる。
瞬きし、再び視られるまでの一瞬。
「轟さんはその一瞬で出せるでしょう!?体育祭で見せたあの、大氷壁を!!」
ゴシャァ!!という音を立てて。
轟が最大出力で氷壁を生み出し、三人と相澤の間に大きく隔たる壁を作り出した。
『寒い…』
「悪い」
轟に巻き添えを食らう形で霜に覆われている向に、轟が左手をかざす。
「復活した瞬間に遮った。これで個性使える」
今のうちに全容を、と振り返った轟の目の前。
八百万の胸元から、ものすごい勢いで相澤の捕縛武器らしき物が溢れ出る。
「……。」
『捕縛武器?』
「ええ。素材や詳しい製造工程がわからないので、全く同じモノは創れませんが」
そして、八百万は固く繋がれた向と轟の手を見つめながら、作戦の全容を語った。
「勝負は一瞬。よろしいですか?」
『了解』
「ああ、文句なしだ」
「ところで。指を絡める必要がありまして?」
「ねぇな」
「気が散るので離していただけますか」
「………。」
急に気が強くなった八百万に指摘され、轟が向の手を離す。
ようやく八百万は作戦準備に取り掛かり、カタパルトとマネキン、布を創造する。
「…なんでちょっと怒られたんだ…」
『私情挟んでるからじゃないかな』
「八百万」
「どうしました?」
「手、繋ぐのも無しか」
「無しです」
「……。」
しゅん、とする轟を無視して、八百万が創造を終え、向に微笑みかけた。
「深晴さん、見ていてくださいね」
『…ん?うん』
「林間合宿、必ず行きましょうね」
『うん、行こう』
プリプリと花を飛ばしてくる八百万に、向が首を傾げる。