第7章 敵の真似ならお手のもの
『………えっ?』
「えっじゃない、なぜ空を見上げているんだ!麗日くんが現れるとしたら下だろう!」
『いや、わからんよ。もしかしたらパァンと飛んで現れるかも。それより、私重要なことに気づいたんだけど』
「なんだ?」
私たちってさ、と向は口元に手をやり、腕を組みながら、さも深刻そうな顔で飯田を見つめてきた。
『敵役なのに、真面目過ぎない?』
「……なんだって?」
『これって敵側の心理を知ろうって意図もあるんでしょ?もっとなりきらないと』
「…なるほど、爆豪くんはナチュラルに悪いが今回の訓練に関しては的を射ているわけだ…ふむ…ならば僕も敵側に徹するべき…!」
独り言を呟いた後、向くん、君の言う通りだ!と飯田は思いっきり入り口に背を向けたまま向に賛成する。
向は窓枠に腰掛けたままの位置から飯田の手前まで移動し、じゃあお互い頑張って敵になり切ろうか、と肩に手を置いた。
『ぐはははー私は悪だぞォ……!』
「ムッ…!」
途端に目を細めて目つきを格段に悪くさせた向を見て、飯田も入り口を振り返りながら「敵っぽい」と思った言葉を口にする。
「グフフフ……俺はぁ…至極悪いぞぉお」
『あっ、いいじゃんそれっぽい』
「本当か!?」
とても複雑な気分だ!と言う飯田の近くで、柱の陰に隠れていた麗日が噴き出した。
突如現れた麗日と、向と飯田の目が合い、一瞬沈黙が場を支配する。
「来たか麗日くん!君が一人でここまで来ることは、爆豪くんが飛び出した時点で判っていた!触れた対象を浮かせてしまう個性…だから先程…」
と飯田はノリノリで、両手を広げ、麗日を嘲笑ってみせた。
「君対策で、このフロアの物は全て片付けておいたぞ!」
ぬかったなヒーロー!フハハハハハ!!
と高笑いする飯田の横で、向は一人眉間にしわを寄せていた。
「さぁ向くん!やってしまおう!」
『困ったよ、天哉。今重大なミスに気づいた』
「なに!?重大なミスとはなんだ?」
『このフロアの物全部捨てちゃったらさ』
『私も小細工、できなくない?』
飯田と向が視線を合わせる。
「…」
『…』
その直後、飯田が「しまったぁアア」と叫ぶ声が、ビル内にこだました。