第63章 十年目の片想い
ーーー私、本当にヒーローになれるのでしょうか?
体育祭終わり。
ガタガタと凍え続けながら制服に着替える向に、落ち込んだ様子の八百万が問いかけてきた。
『え?なななんんんでで』
「あっ、また唇が青紫に!深晴さんが召されてしまいますわ!」
八百万は、青白いままの向の姿を見て。
自分の個性で、ありったけのカイロと毛布を創ってくれた。
『……うわぁあったか…』
「毛布がもう一枚必要でしょうか?カイロはこれで足りますか?いえそれよりもコートを生み出した方が!?どうしましょう、とりあえず何でも創りますので何か欲しいものございまして!?」
でも、と向は言葉を続けて。
向の身体が埋もれるほどホッカイロを生み出し続ける八百万を制止した。
『流石に全部持って帰れないから、この辺で』
「あぁっそうですわねすみません!」
『百はあれだね。ちょっと人より気が回る分、色んなことが心配になっちゃうんだね』
「…そんな言い方をする必要はありませんわ、一言で言ってしまえば…ただの「心配性」ですから」
八百万は向の周りに散らばったカイロを一緒に拾い上げながら。
「本戦でも…色んなことを考えている間に、常闇さんに完封されてしまいました。私の恥ずべき短所です」
自分がさっき問いかけた言葉に、彼女が「正解」を言い返してくれはしないかと。
八百万は、向にちらりと視線を送った。
『言わないよ』
「……えっ」
向は震えながら、微かに微笑んで。
八百万と視線を合わせようとはしなかった。
『人の答えに頼ったら、いつかまた躓くよ。自分で正解を見つけなきゃ』
「……そう、ですが…私にだって、解法が分からない問題だってあります」
二人きりの女子更衣室。
八百万は涙を滲ませて、鼻をすすりながら、一つ一つカイロを拾い続ける。
向は、その彼女をじっと見つめて。
ついに溢れてしまった涙を、指の背で拭ってやった。