第63章 十年目の片想い
「……私…両親に向ける顔がありません、こんな…っこんな予定では…!」
『奇遇だね、私もないよ』
「深晴さんは、大健闘でしたわ!きっとお父様も褒めてくださいます!」
『いや、もう居ないんだ』
「……えっ?」
『ごめん黙ってて。実はもうお父さんはいない。なんだか、すごく百は懐いてたみたいだから言いづらくて』
ははは、と困り顔で笑う向に。
八百万は目を丸くしたまま、呆然とした。
「どうして?」
『事件にあって。なんていうか…こんな予定じゃなかったんだけど、うまくいかないもんだよね』
なんて、言葉をかけてやればいいのだろう。
その告白に、八百万の涙は気づけば止まってしまっていた。
「…っすみません、私…」
自分のこと、ばっかりで。
そう言おうとした矢先、彼女は『あっすごいね』と床に転がっていた何かを拾って、笑った。
『大丈夫だよ。百の心配性も、いつかきっと役に立つからさ』
「……え?」
『あの一瞬で「家に帰った後」のことまで考えてると思わなかった』
彼女は朗らかに、嬉しそうに笑って。
「身体の芯から温まる!」なんてフレーズを前面に押し出している入浴剤を眺めて、クスクスと笑った。
『人より心配になり過ぎるって言うのはさ…人より苦労することも多いかもしれないけど。その分他の人が落っこちるような落とし穴にも、気がついて、他の人が落ちたりしないように教えてあげられるってことだよね』
目先の事だけではなく。
更に一歩先を見据えることが出来る。
向は、どこにでも売っているような安い入浴剤を根拠に、八百万を高く評価した。
『長所も短所も紙一重だしさ』
キミが恥ずかしいと思うその心配性は
いつか、きっとキミを助けてくれる
いつか、きっと
『誰かを助ける…そんな素晴らしい「個性」を持つ百はさ、きっとすごくヒーローに向いてるよ』
彼女は。
ヒーローになれるとは、言ってくれなかった。
けれど、その心配性のせいで大観衆の前で恥をかいて。
大嫌いになりそうになった自分の「個性」を、ヒーロー向きだと、言ってくれた。
(…そうですわ、私の「個性」は…!)
大好きな彼女の、お墨付き