第62章 悪くない
捕縛武器でぐるぐる巻きにされた、二人の間。
身じろぎしてわずかな隙間を作った轟は、向と繋がった方の手を動かして、彼女と指を絡めた。
「どこにも行かねえように、自分と好きな相手を繋いでおけば安心だよな。少し邪魔だが、悪くねぇ」
『…多分、実が言ってるのはそういう用途じゃないと思うけど』
「試験が終わってもこのままがいい」
『それじゃ家に帰れないよ』
「おまえもうちで暮らせばいい。きっと姉さんも、喜ぶ。クソ親父が喜ぶのはいただけねぇが」
『ねぇそういえばエンデヴァーさ…』
「……?」
『…いや、なんでもない』
おたくのお父さん、連絡先交換したらものすごく情緒不安定なメール送ってくるんですが、大丈夫ですか?
(……聞けない……)
息子の授業参観に行く、と息巻いていたのは保須に長期滞在していた数日だけだったらしい。
日夜、また自信を喪失したエンデヴァーから届くメールといえば、「もうつらい」「うち帰りたい」「がんばれない」「人の金で焼肉が食べたい」なんて高校生がTwitterに愚痴をこぼしているような文面ばかり。
メールや文面で本来のキャラが変わる人、焦凍の父、エンデヴァーはその類だ。
(メールで焦凍とやりとりしたら少しは仲直り出来るんじゃないだろうか…)
「深晴」
『……ん?』
「さっき、八百万何か言いたげだったよな」
『あぁ、作戦があるんじゃない?』
「…作戦?なんで言わねえ」
『聞かれてないからじゃない?』
「………。」
『会えたら聞いてみようか』
「…わかった」
で、マキビシまでの距離をいい加減教えてよ、と向が轟に一応、顔を向けた時。
轟が「あ」と小さく呟いた。
「轟さん、深晴さ…っ吊られてる!?」
「八百万」
『百?戻ってきたの?』
「すみません私…っやっぱり!」
「あ、オイ相澤先生来てるぞ!」
追いかけてくる相澤と、吊るされた状態の仲間二人を交互に見やり、八百万は完全にフリーズしてしまった。
その彼女の様子を見て、轟は少しだけ声を張り上げた。
「八百万!何か、あるんだよな?悪い聞くべきだった、「これでいいか?」って何かあるんだよな!?」
「でも、轟さんの策が通用しなかったのに私の考えなんて…」
いいから早くしろ!
一層声を張る轟に、向が『…へぇ』と呟いた。