第62章 悪くない
「マキビシ…忍者かよ。嫌らしい対策してくるな…」
『マキビシ…?こんな高所で、何も見えない状態にされるとかエグすぎる』
「そりゃヒーロー殺しの時とは違うからな。ヒーローの個性も人数も知ってる。迎撃態勢バッチリの敵だ」
もう少し、話し合っても良かったんじゃないか?
それだけ言い残して、立ち去っていく担任を見送って。
轟は、目隠しをされた状態で自身と一緒に縛り上げられている向を見つめた。
『ねぇ、今どんな感じ?』
「…先生が八百万を追いかけた。急いで俺たちも降りねぇと、八百万も捕まる」
『えぇー……マキビシって下にあるの?』
「あぁ。風起こして避けられるか」
『……ちょっと、難しいかなぁ…失敗するとマキビシが宙に浮いて、焦凍に怪我させちゃう』
「距離を伝えればいいのか?俺たちの前に反射ベクトルを出力したまま、風を起こすのは?」
『やってみる。ちなみに私の個性は力を生み出すものでは無いんだけど…まぁまた今度話そう。で、なんか言ってたよね消太に……先生』
「…しょうたに?………今何つった」
『なんか言ってたよねしょう…しょうぶ、勝負はまだわかんねぇ、諦めないぞ私は』
「無理あるだろ。消太にーって呼んでんのか普段」
『ねぇ今それどころじゃないよね、吊るされてるんだよ、急がないとさぁ』
「………。」
『…あれ、距離伝えてくれるんじゃないの?』
「………」
『えっ、焦凍』
「…何だ」
『無言やめて、結構怖いからこれ』
「…目隠し、慣れてんじゃねぇのか」
『目隠しに慣れてるってどんな生活してたらそんなことになんの?』
「………。」
(無言の圧力…!)
向がハラハラとし続ける横で、轟はムッとした表情を崩さない。
『…何でもいいので声を発してもらえませんか…』
「……。」
『何でもいいから』
「……」
『お願い、なんかごめん、機嫌損ねてごめんよ』
「……この前、峰田が」
『えっ、うん』
手錠っていいよな、なんて話しかけてきた。
轟は足をブラブラとさせたまま、地面に転がるまきびしを見つめて話し始める。
『…うん?』
「俺は聞いた。「何が」って」
『うん』
「結局峰田の言うことはよくわからなかったが…今、こういうことかって分かった」
『こういうこと?』