第62章 悪くない
相澤はスタート地点の指示を出した後、素早く家々を飛び移り、姿を隠した。
一切口を挟む余地のない説明を受けた三人は、顔を見合わせた。
『……え、なんで?』
「他の受験者たちと平等に扱うため…なんでしょうが、厄介ですわね」
「大方、似通ったタイプの俺と向をひと塊にしねぇと試験にならねぇんだろ。向の反射があれば、こんな試験普通に歩いてゲートを突破できる」
『じゃあ私だけ試験内容変えればいいのでは』
「それだと平等ではないと申し出る保護者もいるでしょうし…仕方ありません」
走れますか?
という八百万の問いかけに、轟と向が言葉もなく急に全速力で駆け出した。
「えっ、えっ!?」
よもやスタート地点までの道中、置いていかれるのではと焦った八百万が駆け出そうとした時、二人がUターンして戻ってくる。
「流石に全速力は腕の振りが合わねぇな」
『焦凍足速いね…走る時になったら、私が個性使って合わせるしかないかな』
「何か仰ってから試してください、全力で置いてきぼりにされるかと思いましたわ!」
『あれ、言わなかった?』
「いや、アイコンタクトだけだった」
『おぉ、ごめん百』
「……常々思っていましたが、お二人共、行動が迅速なところはそっくりですわ」
「褒めても何も出ね…」
そこまで言った轟が、じっと向を見下ろし、八百万に向かって言葉を続けた。
「褒めても、5万ぐらいしか出ねぇぞ」
「ふふ、お小遣い程度は頂けるんですね」
「…。」
無言で八百万を指差し、向に視線で訴えてくる轟に、向がフリフリと首を横に振った。