第62章 悪くない
何やら無表情のまま、ホクホクとした空気を醸し出している轟に見つめられ、向は『うん、帰りのバスもしようね』と言葉をかけた。
「制限時間は30分」
相澤は三人に向けて、今回の演習試験のルール説明を始めた。
「諸君らの目的は「ハンドカフスを俺にかける」か、「どちらかがこのステージから脱出」すること」
「…えっ、逃げてもよろしいのですか?」
「逃げられればね。今回は極めて実戦に近い状況での試験。教師を、敵そのものだと考えろ。会敵したと仮定し、そこで戦い勝てるならそれで良し。実力差が大きすぎる場合、逃げて応援を呼んだ方が賢明」
轟、向…おまえらはよくわかってるハズだ。
そう言いながら、相澤は腰につけていたバッグから手錠を一つ取り出し、三人の方へと歩いてきた。
「轟は右手、向は左手を出せ」
『「………?」』
ガチャリ
と
轟の右手首と、向の左手首を、相澤は手錠で固定した。
「こんなルール、逃げの一択…と思われちゃ困る。ましておまえらは三人一組、三人バラバラに逃げられちゃ、他のペアと比べて難易度が簡単になりすぎる」
よって、この試験が終わるまでその手錠は外さない。
八百万の個性で外すのも禁止。
相澤はそう言って、自身の四肢にサポートアイテムを取り付けた。
轟はじっと手錠を眺め、向を見た。
向もじっと手錠を眺め、眉を八の字にして、轟と視線を合わせた。
「これは超圧縮重り。体重の約半分の重量を装着する…いわゆるハンデってやつだ。スタート地点に着き次第、モニターで見てる校長の合図で試験スタートとなる」