第62章 悪くない
「…緑谷少年の個性には通ずるものがあってね。突如、個性が発現して困っているとHPへのメッセージがあり、また彼の元へと赴いた」
『………。』
「君と、相澤くんのようなものだよ。学外でも、教師と生徒という関係の他に、師と教え子という関係があった。それだけさ」
(……そんなわけない)
テレビで見た、オールマイトの腕力と。
入試で見た、緑谷が放った超パワー。
通ずるなんてものじゃない。
まるで、オールマイトの個性そのままだ。
そして、あの屋上で緑谷は言った。
個性がなくて、バカにされ続ける人生を送ってきたと。
『…そんなに、隠さなきゃいけないことなんですか』
「…隠し事などないさ。私の不注意のせいで、要らない心労を背負わせてしまった。誰にも話せず、大人たちからは疑われて、大変だっただろう」
『…そんなことは別にどうだっていいです』
口を破ろうとしないオールマイトに、向は折れて。
深くため息をついた後。
『…この秘密は、絶対に口外しません。その代わり』
貴方の傷に、触れさせてもらえませんか
そんな条件を提示してきた。
その申し出を聞き、オールマイトがガハッと吐血しながら目を丸くした。
「えっ、腹パンとかそういう!?」
『ド突きはしませんよ。触れるのも痛ければ、見るだけでも』
「いや、触れる程度なら大丈夫だけど…」
もぞもぞと、黄色いストライプのスーツを脱ぎ始めたオールマイトをじっと眺めて。
向は、露わになった痛々しい傷跡の残るオールマイトの腹部に、そっと触れた。
『いいんですか?』
「ん?何がだい?」
『こんなに簡単に触れさせて』
「どうして」
『私の個性の危険性は、教師陣の中で共有されてると思ってました』
「何を言っているんだ」
「雄英で頑張る君を知ってる。体育祭で、メダルと共に君にかけた言葉は本心だよ。君は本当に素晴らしいヒーローになる」
そう言って。
窪みすぎて、暗い影のようになってしまった彼の目元が笑った。
向は、その優しい眼差しを一身に受けて。
同じように、温かい視線を向け続けてくれていた一人の大人を思い出した。
だから、黙っていられなかった。
『…オールマイト、本当は私…』
私は