第61章 好きこそものの上手なれ
緑谷も彼女と並んで壁際に立ち、神妙な面持ちで問いかけてみることにした。
「…あ、のさ…」
『ん?』
「大丈夫?」
『古文は大丈夫』
「あっ、テストじゃなくて」
『カルピスソーダだから美味しいよ』
「あっ、ジュースでもなくて」
『オールマイト?大丈夫』
そう言って、またカルピスソーダを飲む彼女の口元を、緑谷は横目で見た。
少し、どぎまぎとしてしまいながら、また視線をそらす。
「…本当に?僕は、結構…衝撃だったから」
『オールマイトからどこまで聞いたの?私が、出久とオールマイトが空から降って来た屋上にいたことだけ?』
「……それと…無個性だって思ってた僕の個性が急に発現して、あまりにも個性発現が遅かったためにコントロールが出来ない僕をオールマイトが助けてくれたから、ちょっとだけ他の生徒たちよりは僕とオールマイトの距離が近い…ってことも、話したって聞いた」
『出久さ、誤魔化そうとする時口数増えるよね』
知ってた?なんて笑いかけてくる彼女の真意が読めず、緑谷もぎこちない笑みを浮かべて、そ、そうなんだ?なんて言葉を返す。
『でさ、何誤魔化してるの?』
「誤魔化してないよ!」
『ろくなことにならないよ、隠し事をして嘘をつくと。とんでもないしっぺ返しを食らっちゃうんだから』
「…そんな経験したことあるの?」
『あるよ。つい最近経験したよ』
「その様子なら、もう隠し事はしないって決めたの?」
『いや?もう何も失うことはないからこのまま隠し続けていこうかなって』
「……向さんは、なんていうか…執着がないよね、いろんなことに対して。何も失うことはないって、手元に何も残ってないって意味じゃないよね?」
『ははは、出久は言葉の捉え方が上手いなぁ』
「向さんは誤魔化そうとすると、すぐ「ははは」って笑うんだ」
知ってた?
少し、警戒心をにじませた笑みを浮かべて、緑谷が向を見つめる。
向は笑ったままだった口角を下げずに口を閉じて、緑谷を見つめ返した。
『……出久の個性のオリジンが、どこから来たものだったのかなんて興味ない』
「……!」
『その個性は今出久のもので、出久にしか使えない。むしろ、出久ですら使えないのかな?いつも身体中バッキバキだもんね』