第61章 好きこそものの上手なれ
「…あ、えっと…」
話しかけてみたはいいものの。
「向がオールマイトの時間制限を知っている」ことしか話せないのなら、ワンフォーオールの事も、つい先日オールマイトから聞かされた、オールフォーワンの事も話せない。
「あっ、その。今日は蕎麦食べたんだね!珍しいなって!」
『うん。最近は月水金カレー、火木蕎麦だよ』
「まだ被りまくってるラインナップだけど…一週間カレーより全然食事が楽しそうだね。あっ、唐揚げ定食も美味しいんだよ!!」
『出久よく食べてるよね。実は遠くから見てて気になってた』
「えっ…あ、唐揚げか。びっくりした…」
『いや、違うよ。出久のことが気になってた』
「……………え?」
彼女は、遠くの通路で人目もはばからず口喧嘩を始めた爆豪と、轟を眺め。
ふわりと笑った。
『久しぶりに、二人だけで話そうか』
(…そういえば、向さんと二人で話すのなんて久しぶりかもしれない)
行事続きで、只でさえバタバタしていたし、彼女の周りにはカタギのものとは思えない威圧感を放つ爆豪が常に控えている。
昼食を一緒に食べることが出来たのも、入学したての数日のみ。
それ以降、いつも一緒にいるメンバーが固定されてしまい、緑谷と向は別々の友人グループで時間を過ごすようになった。
(…雄英、席替えしたりしないのかな。かっちゃんがちょっと離れてくれたら、もっと話しやすいんだけど)
恐れず彼女に話しかけた日々もあったにはあったが、音速で振り返って怒鳴りつけてくる幼馴染を、結局向がなだめることになり。
緑谷は申し訳なくて、爆豪の前で彼女に話しかけることをしなくなっていった。
『何か飲む?』
廊下の途中に設置されている自販機を眺めた後、向が笑いかけてきた。
「ううん、僕はいいかな」
『そっか』
向は炭酸飲料のボタンを押し、また歩き始める。
「…結構、早く決まったね?轟くんから、向さんも結構選ぶの時間かかるって聞いてたから」
『あぁ、片っ端から飲むことにした。選ぶの時間かかるから選ばないなんて、画期的だよね』
「ははは、時短テクニックだね」
人気のない選択教室が並ぶ廊下で。
彼女は立ち止まり、壁にもたれかかった。