第61章 好きこそものの上手なれ
「あん!?当たり前ぇだろ、俺が教え殺してやったんだぞ!!」
「なぁ、なんであいつあんなに古文できないんだ?他の教科はほぼ満点だろ」
「知るかボケ、自分で聞け話しかけんな!!」
「………そうか」
そう言ったっきり。
轟は爆豪から視線を外し、じっと向を見つめ始める。
突っ立ったままぼんやりと彼女を眺め続ける轟の横顔は穏やかで、とても落ち着いたものだ。
「…………………」
蛙吹と話し続ける彼女と、甘酸っぱい雰囲気を醸し出している轟を交互に見やり、爆豪がわなわなと震え始める。
「おいコラ、見てんじゃねぇよ」
「……。…なんだそれ」
「あいつは俺のもんだぞ、気色悪い視線向けてんじゃねぇよ」
「深晴はおまえのものじゃないだろ。物でもないし、おまえと付き合ってるわけでもない」
温かかった轟の周りの空気が、一瞬で凍りつく。
「見るな、なんてふざけたこと言ってんなよ」
視線だけを爆豪に向けていた彼は、途端に表情を曇らせ、爆豪の方へと身体を向けた。
「あ?ふざけてんのはテメェだろ、視界にチラつきやがってうぜェんだよ」
苛立った爆豪の感情に呼応するように、彼の両手から軽い火花と爆発音が散る。
「俺の方が深晴と一緒にいる」
「複数人でな。二人きりの時間は負けてない」
「あーそうだった、思い出した。あいつが持ってるワンピースは全部俺が選んでやったんだよなァ」
「初めて二人で帰った日、自販機の前で立ち止まって30分過ごした」
「食べもんシェアすんのだって日常茶飯事だしな」
「ケーキを選んで1時間深晴と審議し続けたことがある」
「全然張り合えてねぇじゃねぇか、ジュース選んだりケーキ選んだりデートの時間配分下手か、何偉そうに言い返してきてんだ!!?」
「おまえは、何かをしなきゃいけねぇ時深晴と一緒に居るだけだ。でも、何もしなくていいような…一緒に電車に揺られたり、ただぼんやり空を見上げてる時に隣にいるのは俺だ」
だから、二人きりの時間は「負けてない」。
もう一度そう言った轟の言葉に、爆豪の怒りが爆発するのと同時。
蛙吹と解散した向の元へ、緑谷が近づいてきた。
「向さん」
『…出久、どうしたの?』