第7章 敵の真似ならお手のもの
ーーーー屋内対人戦闘訓練、開始。
「あっ、待つんだ爆豪くん!!」
ブザーが演習ビルに鳴り響いたと同時に、爆豪は敵チームの本拠地から飛び出して行ってしまう。
まだ作戦どころか、個性についての共有認識すらまともにしていなかった向と飯田は、その爆豪の背を追いかけようと少しその場から足を浮かせたが、すぐに思いとどまった。
『なんか今日ものすごく機嫌悪いね。さっきまでそんなことなかったのに』
「大方、敵チームというのが気に食わなかったんじゃないか?全く…彼は協調性というものがかけらも備わっていないな」
まるでバイキンマンじゃないか!といういささか独特過ぎる例えをした飯田は、隣に立つ向に、ヘルメットを着用した顔を向けてきた。
「向くん、それで君の個性は現状、何ができるんだ?」
『…私は、今何もできないと思う』
「ん?どういうことだ?」
『ゴーグルも使えないし、高速移動もテストで見せたよりは格段にスピードが落ちる。だってこの建物コンクリートでしょ?間違ってぶつかったらなんて想像するだけで恐ろしいよね〜他にできることがあるとしたら…そうだなぁ』
『宙に浮かぶくらいと』と向は地面を蹴り、その場に浮遊すると、飯田を中心に据えてふよふよとその周りを飛び回ってみせた。
『あと直接触ったものに限定されるなら、触れたものを自由に飛ばせるくらい』と、爆豪が蹴り飛ばした一斗缶の側面を向が指先でなぞる。
『自由に飛ばせるは過言です!少し命中精度はゴーグル無しでは下がります!以上!さぁ、クソザコな私を頑張ってうまく使ってくれ!』
「待つんだ、結局君の個性の説明がされていないじゃないか!」
『うーん……まぁそうなんだけど。それよりも、勝己どうする?2対1にさせておくのはまずいのでは』
「それもそうだが…爆豪くんめ、勝手に飛び出していってしまった…何なのだ、彼は!もう!!」
プンプン!という効果音が聞こえてきそうなほどお手本のように腹を立ててみせる飯田に向けて、『私の個性は』、と向が口を開いた時、建物の下層から爆発音が聞こえてきた。
爆豪くんが迎撃を始めたようだ、と飯田は耳につけた通信機に手を当て、機械越しに彼に話しかけ始めた。