第7章 敵の真似ならお手のもの
「訓練とはいえ敵になるのは心苦しいな…これを守ればいいのか。向くん、チームを組むにあたって君の個性が知りたい」
飯田は、核を想定したハリボテのロケット型オブジェを見上げた後、振り返って向に問いかけた。
向は『うーん…』とさっきから目をつむったまま腕を組んで唸っており、自身のハンデをどう乗り越えるかについて熟考しているように見える。
(しかし、戦闘訓練で全力を出すことを禁じられるとは、当たりくじというよりハズレくじではないか?)
向の横顔を見ながら、飯田が腕を組んでそんなことを考える。
すると、焦点が彼女のスッとした鼻筋に止まった。
個性把握テストで骨折した向の鼻を目撃した当初は、二度とその美しい輪郭を見ることは出来ないのではないかとすら考えた。
しかし今、飯田の前に立つ向の鼻は涼しげで、洗練された印象を放っている。
「…向くん」
『…ん?なに』
「鼻が元通りになってよかったな。君は容姿端麗なのだから、以後、怪我には気をつけるようにしよう!」
『………おぉ、なんかありがと』
ビッ!ビッ!と腕を縦に振る飯田をじっと眺めた後、向も彼の真似をしてバッ、バッと腕を振ってみる。
彼女の袖が着物のように揺れるのを見て、飯田は向の手首を掴み、まじまじと袖部分に触れて観察した後、「袖に和柄など入れてみてはどうだろう?」と提案をしてきた。
向は首を横に振って、返事を返す。
『真っ黒なのがいーーー』
バゴッ!!!
と、突如爆豪が近くにあった一斗缶を蹴り飛ばした。
激しい音を立ててコンクリートを転がったその一斗缶に、向と飯田の視線が集まる。
『勝己、敵役が気に入らないからって物にあたるのはどうかと思うよ』
「黙れクソが、ブッ殺すぞ」
『わぁ、適役じゃん。天哉、私たちも見習おう』
「おいクソメガネ、デクは個性が…あるんだな…?」
「クソメガネ…!?…あの怪力を見たろう?どうやらリスクが大きいようだが…しかし君は緑谷くんに」
やけにつっかかるな、という飯田の言葉が言い終わる前に、爆豪の雰囲気がガラリと変わる。
向と飯田はその最高潮に機嫌が悪い爆豪から視線を外し、目を見合わせて、首を傾げた。