第61章 好きこそものの上手なれ
「マジやべ…数学の大問一個埋まんなかった、あれ配点いくつ?赤点とかマジ勘弁!」
「だいたい15点くらいかなぁ。え、そこだけ空欄?」
「空欄…!」
昼休み、食堂。
悔しがる上鳴に、向かいに座る切島が「まぁ赤点にはならねーって!」と言葉をかける。
早々に食べ終わった爆豪がトレーを持ち、返却口へと歩いていく途中。
珍しく一緒に昼食を食べている向と、蛙吹の姿が視界に入ってきた。
ーーー爆豪ちゃん、私も深晴ちゃんとお昼食べたいの。急いで相談したいことがあるから、今日は2人にしてくれない?いつも一緒に食べてるから、爆豪ちゃんには先に一言かけておくわね
朝一。
登校してきた爆豪に、蛙吹が完璧なアポを取ってきた。
断りづらく、かといって強制ではない、蛙吹の頼み。
「急いで相談したいことがある」という理由づけと、「爆豪ちゃんには先に」というグループ内での位置付け。
承諾したわけじゃないが、仕方なく容認した。
「2人に」と言った言葉は嘘ではなかったらしく、いつも彼女が一緒に行動している麗日や緑谷たちは、遠くのテーブルに座して昼食を摂っているのを見つけた。
(……あいつもか)
他に相談できる人間なら、蛙吹には何人もいる。
それこそ麗日にでも相談すればいいだけの話だ。
けれど蛙吹だけではなく、他にも。
何人かのクラスメート達は相談事があると、向のもとへとやってくる。
その理由は、彼女がどんなに重い話でも笑いを絶やさずに耳を傾け、もっともらしい助言を返してくれるからだと、爆豪は知っている。
「あのね、実は深晴ちゃんに相談があるの。聞いてくれるかしら」
『うん、私で良ければ』
笑顔のまま話を聞く向と、周囲を気にしながら言葉を続ける蛙吹を、遠巻きに眺めていると。
「珍しいな。あの2人だけって」
「……あ?」
同じく、食器を返却しようとしていたらしい轟が、爆豪に声をかけてきた。
「話しかけんな、殺すぞ」
「悪い」
未だ、一触触発状態が解かれない爆豪に睨みつけられ、一言断りをいれた轟だったが。
「…深晴、古文大丈夫そうなのか?」
と、一応は彼女の教育係を務めていた爆豪に、問いかけてきた。