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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第60章 仮初の平和




マイクは結局、向を愛していると口にした相澤に対して。
応援する、とも。
やめておけ、とも口にはしなかった。


(…なにやってんだ…)


酔いをさましながら歩く帰り道。
夕飯はいらない、なんて個人の飲み会が理由では送ったことのない向へのメッセージを眺めて。
相澤は途方にくれていた。







正直、なぜマイクを飲みに誘ったのか。
質問の内容も要領を得ないものばかりで、まとまっていなかった。
自分が何に対して、どんな助言を求めていたのか。
分かりやすく、簡潔に表すことなど出来ない。
けれど、確かに同期に何かを求めた。
客観視。
冷静さ。
忠告。
賛同。
後押し。
この感情に当てはまる言葉など思い浮かばない。
しかし、オールマイトに勝てるわけがない、と言った彼の言葉は、やけに頭に残っている。
そう言われて、あぁ、やっぱりな、なんて安心する気持ちが芽生えたのと同時。
あぁ、やっぱりな、と胸がざわついたことにも気づいた。















帰りたくない。
そんな気持ちも確かにあった。
最近の彼女は。
以前にも増して、同居人としての立場から一歩踏み出してくることをしなくなった。
想いが通じ合うまでは、彼女の方から投げかけられていた「それっぽい」言葉も。
最近は一切、聞こえてこない。
大好きだよ、という彼女のあからさまな好意が目の前に差し出されるまで。
相澤が勘ぐっていたようなわずかな可能性さえ、彼女はちらつかせなくなった。
一度、想いが通じ合ったからこそ、分かってしまう。









ゆっくりと








彼女の心から、自分が消えていく












秘密を知る為、小賢しい手を使ったからか。
二人の関係に「仕事」を持ち込んだからか。
勝手に距離を取り直したからか。
何かが彼女の気持ちに変化をもたらした。
自分はふさわしくない。

だから、彼女の心に留まるべきじゃない。

そう結論づけて、意図的に離れるそぶりを見せつけた。
彼女を手放したくないと軋む本心を縛り付けて、彼女が去っていく背中を、血眼になって見つめ続けて、必死に耐え忍ぶ日々は。










まるで、自分の首に、ゆっくりと






両手をあてがい、人知れず






首を絞め続けるような日々






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