第60章 仮初の平和
「好きな女に、私ヴィランだから貴方と結婚は出来ない、なんて言われてみろ、メンタル崩壊なんてもんじゃない」
肘をついて、その手のひらに顎を乗せたまま視線をテーブルに落とす相澤を見て。
マイクは自嘲気味に笑ってみせた。
「…おまえが向を本気で愛してるのは今までの様子見て薄々勘付いてた。どうやってそんな話になったのか知らねぇけど、向曰く、「オールマイトの秘密」を知って悲観的になってたところにUSJでの雄英教師陣の失態、なりてぇヒーローなんてもんが思いつかねぇなんて発想になるのもわかる。自衛の為、雄英に入ったなんて理由も無くはねぇ。けどあいつの部屋の様子はやっぱりおかしい。アレはその場に留まる気がねぇ人間の部屋さ、俺は知ってる」
そういう同居人がいたからな。
「……。」
10年以上の付き合いで、初めて知った同期の秘密。
それを目の前で、渾身の手品を披露する時のようなドヤ顔で語ってみせるマイクに、相澤はただ言葉を失って視線を向け続ける。
「断言出来る。あの子はおまえの知らない一面を持ってる。根は悪かねぇし、気立てもいい。おまえの前の恋人選びからしたら、ちょっとモラルに欠けちゃいるが悪かねぇ!けどそんな一面を隠すために重ねた嘘の言葉に、おまえが何かを手放すこたねぇよ。担任は、おまえが適任だ。オールマイトじゃ学級崩壊だぜ。ヒーロー養成科の前に、学校として成り立たねぇ」
「…あいつがヴィラン連合の内通者だと思うのか?」
「無くはねぇって話だろ。俺の勘が正しけりゃ…あいつは俺にも、おまえにも嘘を貫き通した。隠し通したい何かがあるんだ」
「何かを故意に隠したとは決まってない」
「オイオイ、俺の場数と経験から得た男の勘をなめんなよ…それと、間違っちゃ困るぜ」
「………?」
「よーーーく覚えとけ!!」
おまえも十分強くて、カッチョいいプロヒーロー、イレイザーヘッドだ!!!
ビシッとポーズを決め、両手で指を指してくるマイクの言葉に。
相澤は眉間にしわを寄せる。
「…おまえに言われたところで、何もなんねぇよ」
「そいつはシヴィーーな!!俺が聞いてやろうか!?向に!先生のことどう思う?弱いと思う?って!」
「そんなことしたらおまえの家にピザ10枚出前頼むからな」
「陰湿かよ!!」