第60章 仮初の平和
酒は進み、言い争いも続く。
何年振りかの同期飲み。
その雰囲気は、5年や10年歳を経たところで全く変わらない。
「だいったい意味わからねんだよ、なんでおまえ飲み会ド頭でどぎつい話題出してくんの!?募る話もあったろうよ、コミュニケーション下手か!」
「うるさい、ボリューム下げろ。おまえがテンション上がって聞きたいこと聞く前に潰れたら、わざわざ誘った意味がねぇだろ」
「ハーーーーーーーー、これだから友達がいが無ぇヤツはよぉ!!全部計算づくか、おまえ打算するの当たり前だと思ってっかもしんねぇけど、そんなこと向にやったら一発で嫌われっからな!!!」
「誰がするか、そんな…」
そんな、酷いこと。
そう言おうとして、言葉に詰まった。
「せっかくよぉ……華金によぉ…合コン断ってきたのによぉ……」なんて泣き上戸に移行するマイクを眺めて、相澤は、止めていた息を吐いた。
「数少ねぇ同期だから許してやんだぞ、わかってんのか!?」
「………。」
「おい無視か!ムーーーシでーーーすかァアアアア」
「うるさい」
カッと同期に鋭い視線を向けられても、マイクは声を失ったまま口を大きく開閉し続けた後、ぱったりと机に倒れた。
「………おい、酔いすぎだ。水頼むぞ」
渇いて少し痛みの残る目元に手を置いた後、相澤は店員の呼び出しボタンを押した。
「オールマイトにゃ勝てるわけねぇだろ」
だからあの人はNo.1だ。
そう呟いたマイクは机に倒れたまま、顔を再び相澤へと向けた。
「おまえが向を問い詰めたのは良くやった、なんて言ってやりてぇけどよ。でもなーんか腑に落ちねぇ。本当にあいつ、オールマイトがいない今後を憂いてんのか?ならなおさら全力で授業にだって臨むだろ。信頼できる仲間だって作るに越したことはねぇ。けどあいつは、どっかまだ他人と一線を引いてる」
「…なんでそこまであいつを疑う?」
「昔好きだった女がヴィランだった経験があるからさ」
マイクの言葉に、相澤は目を見張った。
いつも通りの笑みを浮かべるマイクに、「…へぇ」とだけ返事を返した同僚へと「もっと興味持てよ!!」なんてツッコミが入った。
「部屋の感じが似てんだよ。その女と、向と。だからちょっと勘ぐりたくなっちまうのさ」