第60章 仮初の平和
相澤は何も答えず、寿司に手を伸ばし、それをマイクが横取りした。
また不機嫌そうな顔に戻り、寿司をモッチャクッチャ口に頬張るマイクを睨みつけた相澤は、刺身に手を伸ばす。
「若い奴ら見てっと確かになんか、いつからか失ったもんがあるんじゃねぇかとか、たまに気になるけどよ」
マイクはまた「あーちょっとごめんなさいネ!」と相澤より早くマグロの刺身を掠め取り、噛み砕いていた寿司を飲み込む前に、口の中へと放り込んだ。
「失ったからってなんだっつーんだよ。こっちは場数も経験も踏んでんだぞ。向上心だァ熱いソウルだとかは、はたから見て、解説でもして茶化す程度で十分だね俺は!!」
「さぞ、プレゼント・マイク先生はお強いんだろうな。耳郎と口田はお気の毒」
「轟たちはさぞ楽勝だろうな!!?こんなメンタル弱弱なセンセェに相手されてラッキー!!!」
おまえは、と相澤が皮肉の応酬を続けようとした時、マイクが刺身を取っていた相澤の箸に食らいつく。
さすがに許されず、ドッ!と一切の躊躇いのない頭突きが繰り出され、「イィイタァアアアイ!!!」なんて公害レベルの騒音を発するマイクに、「営業妨害だ、二次会は警察署といこうか」なんて笑えない冗談を口にした相澤が再び頭突きをした。
「Oh……ぉおぉあ………」
「好きな女に、おまえと一緒にいても安心できないなんて言われてみろ、メンタル崩壊なんてもんじゃない」
「エェー…あの子猫ちゃんそんなえげつない事言ったのかよ」
「言われなくてもわかる」
「いや…言われてねぇなら、んなこと思ってねぇだろうよ」
「あ?」
「安心できねぇ男と二人暮らしなんか出来るかって」
「そういう安心じゃねぇんだよ」
「何、包容力があるとかそういう話じゃなくて?セコム的な話?向は何、オールマイトみてぇなムッキムキな自宅警備員を欲しがってんの?」
「…………。」
「あーはい出ましたその顔、(おまえに話したのが間違いだった)ってやつ!!そんなのもう慣れっこだもんね!!ヘコたれたりしないもん!!強い子だから!!」
「なにが「もん」だ可愛こぶんな三十路…!」
「おまえだって小汚ぇ三十路だろ!小綺麗な俺の方がモテるオッサンだね!!」
「モテなくていんだよ、俺は歳相応に振舞ってる!」
「あれっ??引くほど歳下趣味じゃありませんでしたっけェェ!?」