第60章 仮初の平和
相澤の言い分はこうだ。
他の生徒には1ミリもそんなやましい気持ちを抱いたことはない。
向深晴が特別なのであって、本来そういう趣味はない。
自分だって馬鹿げてると思い、一年過ごしてきたが。
どうにもこうにも気持ちの落とし所が見つからない。
そこで、おまえに聞きたいことがある。
「担任、降りるべきだと思うか?」
「……そいつぁ、おまえの為か?保護者の為か?」
「どっちの立場から考えてもいい。ちょうど学期末。担任交代には丁度いい」
「あんだけ波乱万丈な前期を過ごした生徒の担任を変えるっつーのか?おまえ、もう酔ってんだろ!!」
「酔っちゃいねぇよ。ただ俺よりもっと適任がいるって話だ」
会議中、一度だけ。
相澤が資料から視線を逸らし、その目に映した人物が一人だけいる。
マイクはその視線の先にいた人物を思い出し、深くため息をついた。
「ハーン、さてはオールマイトと自分を比べてんな?」
「…比べちゃいない。危機意識だ。俺はUSJで脳無に歯が立たなかった、そのことを最近よく考える」
「比べちゃいねぇなら、なーんで俺に向の話をする必要があんだよ?洗いざらい話すっつっても一切話さなかったおまえさんがよォ」
「一番、あのクラスで危機感を感じてるのが深晴だからだ」
「…………?」
「元々、話にあがってたろ。オールマイト引退後…日本の犯罪率がどれほど上がるか。正直、オールマイトの秘密を知った深晴のケアをオールマイトに一任、なんて校長の判断には納得してない」
「甘すぎるっつーことか?で、安心させるためにオールマイトを担任に?オイオイ、そりゃ合理的なケア方法っつーよりリスクが大きすぎんだろ。USJん時なんか、オールマイト目的でおまえら1-Aが巻き込まれたようなもんだしよ!」
「保須でもまた脳無が現れた。今後、ヒーロー社会への警鐘としてヴィラン連合があのレベルの手駒を使ってこないとは言い切れない」
「あのなぁ…なら、おまえとオールマイトの複数担任ってことならわかる。「歯が立たなかった」とか「あのレベル」とか…期末試験で三人一組任される男のセリフかよ」
お待ちどー!と店員が日本酒や料理をテーブルに並べて、また元気よく襖を叩き閉じていった。