第60章 仮初の平和
久しぶりの定時帰宅が出来る華の金曜日。
相澤は何年振りか、マイクを飲みに誘った。
明日はきっと地球に隕石が降り注ぐな!!?なんてふざけてみせるマイクに、大した反応も見せず。
手近な場所にあった、居酒屋に入った。
「俺は深晴を慕ってる。家族愛じゃなく、パートナーとして」
合理主義者である相澤は、前置きも弁明もなく淡々と。
そんなんじゃない、なんてずっと煙に巻いていた自身の心の内を明かした。
呆然とするマイクと向き合って。
彼は、店員が個室へと運んできたビールに口をつけ、視線をテーブルに落としたまま、言葉を続けた。
「馬鹿げてると思うだろうが、俺への批判は後で受け付ける」
「その前に一発殴っていいか?」
「店を出てからにしろ」
「アァアン!!?知るかテメェ表出ろや!!!」
掘りごたつの座敷で息巻いているマイクを無視して、相澤が店員の呼び出しボタンを押す。
「お呼びでしょうか!」
「HEYガールウェイッメネップリー!!!」
「日本酒熱燗4合」
「ヨッ!!!!?」
焼き鳥の盛り合わせ、寿司、刺身、つまみ、と普段の彼からは想像もつかない量の料理を頼み続ける相澤を見るにみかねて、マイクがシャウトした。
「他は?」
「要らねーわ!!!どんだけ頼むんだお前少食のくせして!!あとだし巻たまご!!!」
「頼むんじゃねぇか」
笑顔の店員が「はいよー!」と返事をして、スパァンと襖を閉じ去った。
マイクがそこまで元気よく閉めなくてもいいんじゃねえか、なんて考えてしまい、ハッと我に帰る。
「さァ仕切り直しだ!!表出ろや!!」
「もう頼んじまっただろ」
「誰ダァだし巻たまごなんて頼みやがったの!!!」
「おまえだよ」
スタートから日本酒4合に、何人前かわからないほどの食事量。
完全なる、暴飲暴食。
座れよ、と視線で促してくる同期に、マイクは眉間にしわを寄せて。
「…でェ!!!?惚れて、どうしたよ」
そう言って、ドカッと掘りごたつに座り直した。
とんだ華金だぜ、とぼやき不貞腐れながら、ジョッキに入ったビールを一気に半分飲み干した後。
「カーーーッうまっ!!サイコー!!!華金サイコー!!!Fooooooー!!!」
なんて一人で大騒ぎを始めるマイクに、相澤が「清々しいほどに単純だな」と突っ込み、始めの一杯を飲み干した。