第59章 梅雨にのぼせる
そして現在、放課後に至る。
いつも通り、下校時刻直前まで残っているのはこいつと俺だけ。
二人きり。
『……授業料、何がいい?』
なんて聞いてくるから。
「……てめェを寄越せ」
と言った。
『…そんなものじゃなくて、もっと価値のあるものを望んでよ』
「我慢してやるっつってんだろうが」
『ああ言えばこう言う』
「聞いたのはてめェだろ」
いいから寄越せ。
お互い、視線を落としたまま声を発する。
深晴は少し黙った後。
『…辛いものでも食べに行こうか』
そんな折衷案を持ち出した。
「んなもん自分で食うわ」
『…赤点だったら、林間合宿行けないのか。でもまぁ、それでもいいかな』
肝試し怖いし。
なんてことを呟いたのが聞こえて。
(ギャップかよふざけんな可愛いだろうが)
と思ったのは口に出さず。
「…ハッ、てめェが泣き叫んでるのなんて見ものだな」
『そんな最低なこと言うやつとは絶対肝試しのペアにはなりたくない』
「あ?」
一向に、俺の意図を理解しない深晴にイラつく。
なんでだ。
喜ぶとこだろ、フツー。
「うるせぇ、なるわ」
『……なにに?』
「脈絡考えりゃわかんだろクソが」
『……ペアに?そんなに人が怖がってるところ見たいの?』
また話が変な方向に向かってく。
こういう時は無視すんのが一番良い。
(……!)
深晴が献上してきた菓子に、二人とも同時に手を伸ばして。
指先が触れた。
『ごめん』
「……」
今の一瞬で。
自分が日直日誌に何を書こうとしてたのか、忘れた。
(クソが…)
こいつといると、いつもこんな調子でなにも捗らない。
何も頭に入ってこない。
指、なっが。
顔、ちっさ。
腹立つほど可愛い。
んなこと考えてるほど暇じゃねぇのに、こいつのせいで毎日毎日思考が逸れる。
(……こんなの)
俺じゃねぇ
『あのさ、明日から自分で勉強するね』
イラついている俺に気後れしたのか、深晴は不意に、提案してきた。
『なんか…付き合わせてごめん、集中出来ないのに。…本当は帰りたくないだけなんだよね。ちょっと家で勉強出来なくて。これよりさらに集中出来ないんだ今』
「……。」