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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第58章 臆病と疑念と切なさ




しくじってしまった。
下手な事を聞いたせいで、追求を逃れられなかった。
なんで聞いたのかなんて、そんなこと。
彼は、最重要人物だからだ。
迷いがあるとはいえまだ、生きる意味を捨てきれたわけじゃない。
それらしい理由を並べ立てて、その場を誤魔化して。
あぁ、しくじったと、もう一度。
黙っていればよかったと後悔した。


「おまえ、古文赤点とったら補習だからな」
『うわぁ、マジですか。帰国子女補正つけてよ』
「そんな特典はねぇよ」


恋愛に溺れたフリなんて大人気ない。
本当に女性として、溺愛されているかと思った。
誰かに髪を乾かしてもらったのなんて、何年振りか覚えてなかったから。
本当に、嬉しかったのに。
私がオールマイトの事を、話した途端。




彼はまるで




ただの同居人の距離へと離れて




私に触れてこなくなった







(……あぁ、なんだ…そりゃ、そうだよ)







15歳差。
教師と生徒。
プロヒーローと、得体の知れない子ども。
夢を見れただけ幸せじゃないか。
私が話した今までの話を、彼がどこまで信じていたのかわからないけど。
信じる素ぶりを見せてくれただけ、他の大人とは大分違った。
彼が私に向けていた情のどこまでが同情で。
その瞳に浮かんでいた情のどこまでが愛情なのか。
私にはわからない。
わかっているのは、大人は卑怯で、プロヒーローなんてみんなそんなものだということ。
誰かからの視線を失う瞬間など、いつだって理不尽で自分には避けようも気づきようもないということ。
ひとまず、今は。
目標だったオールマイトと、接点を持てただけ良しとしよう。








灯りもつけず、暗い自室で着替えていると。
スマホの画面が光を放った。


『…もしもし?』


週末、予定は?
電話口から聞こえてきた彼の言葉に、私は乾いた笑みを浮かべて答える。


『懲りないね…キミもいい加減目を覚ましたら?』


そんな私の八つ当たりに、あ?現実見てないのはおまえだろ!と少し苛立たしげに声を荒げる彼に。
私はクスクスと、笑みを浮かべた。


<…大切な人とやらに振られたか>
『相変わらず鋭いなぁ』
<深晴>








<俺にしとけ>







そう言って、黙り込む彼の声に。
私は笑って。
答えを返すことはしなかった。

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