第58章 臆病と疑念と切なさ
話に聞く限り、史上最悪なヴィランと出くわしてしまったことで彼女の生きる世界は、クソみたいな世界に成り果てた。
そんな彼女の目にその辺にいくらでも転がってるようなモブの敵でさえ、どれほどの脅威として映っているのか計り知れない。
彼女に希望を与えたオールマイトはもう、以前のような力をヴィランに対して振るえない。
幼いながら、事の重大さを理解した彼女が誰にも、話さずにおいたオールマイトの秘密。
俺が、彼女が口を噤んでいたことを暴いてしまった後、彼女は言った。
「不安でどうしようもない」
平和の象徴が倒れたその先の世界を、彼女は憂いて。
怖くて仕方がない、と言って、隠していた臆病な自分を俺に見せてくれた。
彼女の本心と、懸念を聞いて。
俺は酷く落胆した。
自分の不甲斐なさを呪った。
今や衰えていくだけの平和の象徴。
USJで、自分が倒れた後。
オールマイトが現れた所で、彼女は安心など到底出来なかっただろう。
圧倒的な暴力の前に倒れ伏した担任と、自身の個性で身を塵にしてしまった頼り甲斐のない教師たち。
ヒーローを育てる立場の人間が、あんな体たらくとは。
どれだけの希望を失い、呆れ果てたのか。
想像するのは恐ろしい。
あぁ、やっぱり俺は、どうしようもなく弱くてかっこ悪い
俺なんかより、おまえの方がずっと強いヒーローになる。
けどそんな事を「仕方ない」なんて片付けるような俺じゃだめなんだろう。
おまえからしてみれば、俺はどれほど情けなく、頼りない想い人なのだろう。
自分のことばっかりで、見えてなかった。
力だけが全てとは言わないし、そんな単純に生きていけるほどこの世の中簡単じゃない。
それでも、俺はおまえに似合う男じゃない。
分かってたのに、分かってなかった。
おまえに「守れなかった」弱音なんて、吐くんじゃなかった。
あんな超人的な個性、勝てるわけがない。
生徒たちに競わせておきながら。
いつからか、現状維持に甘んじた。
もうずっと、深晴に触れてない
触れてはいけない
俺は彼女に何も与えてやれないから
こんなことになるのなら
夢など見なければよかった