第57章 学生の本業
「聞けばよかったじゃん。こんだけ一緒にいるんだからさ」
「………いや、でもさ」
「おう」
「昨日、向になんで爆豪といつも一緒にいんの?って聞いたら、「何も聞かないから」って言われて」
「ハァ!?なんだそりゃ、シークレットガールなん?」
「シークレットガールかは知らねぇけど、あんま話しかけられるの実は好きじゃないんじゃ…?とか今迷走してる」
「へー、切島も結構アホっぽいのに色々考えて大変ね」
「おまえには言われたくねえけどな…まあでも、アホはアホなりに悩んだりするんだよ。おまえもアホだから分かるだろ」
「そんなにアホアホ相談相手に言うもんじゃないと思います!」
大丈夫だって!なんて根拠のない応援の言葉を放つ上鳴に、切島が怪訝そうな目を向ける。
「おまえらしくねぇじゃん、ウジウジしてんの。女子に用事もなく話しかけてウザがられないのなんてイケメンの特権だから、大丈夫!何聞いたってウザがられるの前提で、当たって砕けてこうぜ!!」
「おまえ女子好きなのに結構偏見入ってね?…俺らしくって言われてももうわかんねーよ」
「爆豪が聞かねぇのは聞けねぇからだろ。おまえが言えねぇような「行くぞ」とかを爆豪が言えんのと同じ!言えない奴と聞けない奴も俺からしたら同レベだから、おまえが気ぃ引けてる理由マジでわかんねぇ」
「…上鳴おまえ」
意外と、良い奴だよな。
そう言って、電車から見える景色を眺めたままの切島に、上鳴がカラカラと笑って言葉を返す。
「意外とってなんなん?それに男に褒められてもなんも嬉しくないんですけど?良い奴ポジはおまえじゃん」
「おまえも良い奴ポジじゃん」
「俺のウサギポジは譲らねぇから!!」
「向に構ってもらって味しめてんなさては…でも確かにおまえ、人知れず寂しがってそうだもんな」
アホはアホなりに悩んだりする。
自分が言ったそんな言葉を頭の中で反芻しながら、切島がため息をついた。
(…聞けない奴と言えない奴…。聞ける俺と、言える爆豪か。……あぁなるほど、爆豪は行くぞ、とか帰るぞ、とか言えるから向と一緒にいれるんだ。別に俺が避けられてるわけでもねぇし。現に轟も「隣がいい」とか言えるから、爆豪と張り合っていられんのか)
俺も。
そう考えた切島の顔が引きつり、上鳴がまた「どしたん?」と問いかける。