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風向きが変わったら【ヒロアカ】

第56章 損する性格




(……うわぁ…)


『鋭児郎、ポップコーン食べたい』
「お、おぉ…」
『…暑い?袖まくれば?』
「いや、大丈夫!」


映画が始まる10分前。
緑谷が譲ってくれた座席に座って。
俺はなんだか止まらない冷や汗を、額にも手のひらにもかきながら、身体を強張らせていた。


(…緑谷、良い奴だな。なんでここまで応援してくれんだろ)


向の私服をあんなに集中して観察していたくせに、隣の座席はすぐ譲るなんて。
爆豪と上鳴だったら、絶対に譲るどころか自慢してくるだろう。
そんなことを考えてから、あぁまたあいつらのことかよ、なんて。
ちょっとおかしくて笑ってしまった。


『…ん?』
「向、学校楽しい?」
『うん。すごく。鋭児郎は?』
「すげー楽しい。明日も楽しみ」
『お好み焼きね。楽しみ』


自分で口にして。
あぁ、そっか。
今週は毎日、向に会える。
すごく幸せな一週間だな、なんて。
この映画が終わったら、もう明日しか残っていないのに、そんなことを考えた。


「そういや、なんであの二人復讐者Xの末路、嫌がったのかな。血みどろな映画嫌いとか?」
『あぁ、私に見せたくなかったんじゃないかな』


あの映画の復讐者、最後死ぬだろうし。
彼女はそう言って、俺の右手側に置いていたジュースを左手に持った。


「…死ネタがダメとか?」
『ははは、そうかも』
「……。」


また向は笑って、まっすぐスクリーンを見つめ続ける。
その横顔を眺めて、俺は。
ずっと気になっていたことを聞いてみることにした。


「…向さ」
『ん?』
「…なんで爆豪といつも一緒にいんの?」
『…なんで?鋭児郎も一緒だよね』
「でもさ、俺らとおまえらはなんか違うじゃん。…なんで?会話が弾んでるわけでもなさそうだし。爆豪が向と一緒にいようとすんのは分かるけど、おまえがなんで?って思うよ」


あぁ、なんか。
嫌な感じに聞こえたらやだな。
別に爆豪が嫌いってわけじゃない。
むしろちょっと尊敬してるし、面白いとも思う。
良い奴とは思わないけど、嫌な奴とも思わない。
俺と同じ、怖いもの見たさみたいなもんなのかな。


『なんで?……なんでかなぁ』


彼女は少し考えて、答えた。


『…何も、聞いてこないからかなぁ』

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